経済的に困窮している子どもたちのため、私財をなげうって奨学金を支給している男性がいる。宝塚市の三村正之さん(80)。これまでに計約5億3900万円を、399人に配ってきた。返済不要で見返りは一切求めていない。「財産は全く惜しくない。枯渇するまで使い切りたい」
自身は幼少期、父から過酷な虐待を受けた。一方で母、そして義父からは惜しみない愛情を注いでもらった。不動産業で財を成したが、質素な暮らしを続けている。
昨年8月下旬、所有するアパートの1室で奨学金の面接をする三村さんの姿があった。「緊張せんでええよ」。優しいまなざしで語りかけ、時に冗談を言って笑わせる。相手は高校3年生で、会うのはこの時だけ。「子どもたちの幸せを願うのは、私にとって本能みたいなもの」