春の味覚・タケノコがおいしい季節だ。兵庫県姫路市西部の太市地区の特産品で「姿は京の山城、味は太市」と称されるほどだという。この時期、地元では毎日のように食卓に並ぶとも聞く。ならば、タケノコ農家さんにお願いし、“わが家自慢の一品”を作って紹介してもらいたい。「うちのタケノコはまさに絶品。一度は食べないともったいないよ」。農家の女性4人が腕を振るったタケノコづくしの手料理を前に、取材も忘れ、手を合わせた。いただきまーす。(記事・森下陽介、写真・大山伸一郎)
広岡富枝さん(70)ら地元農家4人に集まってもらった。日頃から料理サークルで一緒に料理をする仲という。「わいわい皆で作るのが楽しいねん」と取材を引き受けてくれた。
メニューは、たけのこご飯▽タケノコの天ぷら▽若竹煮▽木の芽あえ▽吸い物▽白あえの6品。料理によって使うタケノコの部分は異なるという。吸い物はやわらかい穂先を、天ぷらには大きく少し硬めの根っこの部分といった具合だ。
まずは水洗いし、皮のまま水を沸騰させ湯がく。竹串で刺しながら、スッと入るようになったら火を止める。ゆであがったタケノコは1日、水に漬けおく。「わずかにあるえぐみが、こうしとくと抜ける」。下ごしらえを済ませたタケノコを、4人がメニューに合わせて切り分けていく。
旬のタケノコ料理を毎日のように食べられるのは、うらやましい限り。ところが、広岡さんは「小さい子どもだと毎日食べると飽きてくる。どうしたら食べてくれるか、どの家でも工夫をしている」と笑う。日頃、豚肉でタケノコを巻いたり、細かく刻んでひき肉と混ぜたりしているそうだ。「おいしく食べてもらうのも一苦労。太市の子どもたちにはタケノコを好きでいてほしい」
料理するのを横で見ていると、4人とも目分量だ。「何十回、何百回と作った料理に、はかりなんかいらん。色やにおいで大体分かる」と自信たっぷり。「木の芽あえは、きれいな緑色を付けるのにホウレンソウの葉先を入れる」「白あえは、豆腐が傷まんよう、タケノコはよく冷まさなあかん」など、豆知識も教えてくれた。次々と料理ができあがり、1時間ほどで6品が食卓に並んだ。
タケノコ農家でつくる太市筍(たけのこ)組合の方たちも交え、食卓を囲んだ。「いくらでも食べられるな」「こんな分厚いもん、よそでは食べられへん」。やわらかく風味豊かなタケノコ料理を味わいながら、太市産のタケノコ自慢で盛り上がった。
今が旬真っ盛りの太市のタケノコ。皆さんも一度は食べてみないと、もったいない!?
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太市地区(姫路市西脇、太市中、相野、石倉)のタケノコは、肉厚で甘みが強く、あく抜きをしなくとも癖がないのが特徴という。
タケノコ生産は、江戸末期から続くとされ、農閑期の仕事を増やそうと竹を植樹したのが始まりという。現在の栽培面積は約53ヘクタール。おいしさの秘密は、鉄分を含む粘土質の赤土にあるという。白くやわらかいタケノコは皮付きのまま出荷されるほか、個人向けにも宅配や直売を行う。また缶詰に加工して販売もしている。
3月末から4月にピークを迎える収穫作業は全て手作業。約255戸からなる「太市筍組合」の組合員が、トンガと呼ぶ専用のくわを使い、朝早くから掘り起こす。篠本忠美組合長(78)は「一口食べてもらえば違いが分かる味。太市のタケノコの魅力をもっと広めたい」と意気込んでいる。同組合TEL079・269・0034
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■白あえ
(1)豆腐の水分をよく切る
(2)すり鉢に豆腐、ホウレンソウ、ゴマを入れて混ぜる
(3)だしで下味を付けたこんにゃくやニンジン、タケノコを加え、混ぜる。
■吸い物
カツオや昆布のだしを沸騰させ、穂先のやわらかいタケノコとワカメを入れる。硬めの食感が好みなら根っこに近い部分のタケノコを使う。
■たけのこご飯
(1)タケノコにだしで下味を付け、いちょう切り
(2)ニンジン(短冊切り)とともに、(1)のだし汁で米を炊く。
■天ぷら
水気を切った若竹煮に天ぷら粉をまぶし、高温の油で揚げる。
■木の芽あえ
(1)木の芽の軸を外して葉だけにする
(2)ホウレンソウの葉先を加えてすりつぶす
(3)白みそに砂糖、四角に切ったタケノコを混ぜ合わせる。
■若竹煮
半月切りのタケノコを濃いめのかつおだしで煮込む。味が染みたところで火を止める。