客からの暴言や暴行、理不尽な要求など、著しい迷惑行為をする「カスタマーハラスメント(カスハラ)」が社会問題になっている。毅然(きぜん)とした対応を明記した対処方針を定める企業が増えており、国では対策を法制化する動きがある。一方、加害側は特に中高年が多いとの調査結果もある。なぜ人生の経験を積んだ人たちが「シニアクレーマー」になるのだろうか。(斉藤正志)
■「何様のつもりだ」と暴言
労働組合「UAゼンセン」は6月、スーパーやドラッグストアなどの流通業や、サービス業に従事する組合員へのカスハラアンケートの結果を発表した。
直近2年以内に迷惑行為の被害に遭ったことがあるとの回答が、46・8%に上った。
生々しい事例も記された。
「冬の屋外で2時間以上、謝罪をさせられた」
「歯を食いしばれと言われ、殴ろうとしたり、車で轢(ひ)こうとしてきた」
「セルフレジで会計が終わっていないのに帰ろうとしたので声をかけたら、クレジットカードを投げつけられ、『何様のつもりだ』と暴言を吐かれた」
「『女のくせに』と暴言を吐かれ、後日、木刀を持って再来店され、非常に恐怖を覚えた」
「謝罪はしたものの、謝罪がないとSNSで名指しで投稿された」
加害側の推定年齢は、60代が29・4%で最多。50代27・2%、70歳以上19・1%、40代15・6%と続く。
50歳以上で計75・7%と約8割を占め、40歳以上だと91・3%に上った。
性別では男性が70・6%、女性が27・1%だった。
■「対応しない」明記
企業では、度を越した要求には対応しないことを打ち出すなど、カスハラ対策に取り組む例が相次ぐ。
2022年に大手ゲームメーカーの任天堂が、カスハラがあった場合は修理サービスを行わないと規定に明記。24年には、JR東日本やJR西日本、全日本空輸、日本航空が対処方針を公表した。ホテルや百貨店といった業界でも、取り組みが広がっている。
東京都はカスハラ防止に向けた条例を制定する方針。厚生労働省は、従業員の保護対策を企業に義務付ける法改正を検討している。
■中高年に多い三つのタイプ
カスハラ問題に詳しい関西大社会学部の池内裕美教授によると、迷惑行為に及ぶ人には、高学歴、高所得で社会的階層が高い▽完全主義的な性格▽自尊心が高い-などの特徴がみられる。
会社で管理職などに就いている人が、社内での立場を社外に持ち込むなど、特権意識を主張する傾向にあるという。
池内教授によると、そういった社会的地位が高い中高年には、主に「筋論クレーマー」「自慢型クレーマー」「世直し型クレーマー」が目立つ。それぞれ、どんな特徴があるのか。
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【池内裕美(いけうち・ひろみ)】 神戸市出身。関西学院大大学院社会学研究科(博士課程)修了。広告デザイン会社勤務、日本学術振興会特別研究員を経て、2003年に関西大社会学部の専任講師に。11年から同学部教授。専門は社会心理学、消費心理学。