借金、浮気は一切ない。暴力や暴言を受けたわけでもない。ただ、夫は他人に全く興味を持たず、家庭内でのコミュニケーションはほぼ皆無だった。さまざまな夫婦の実話を紹介する「シリーズ離婚」。今回は「他人に無関心な夫と会話のない生活」(全3回中の1回目)。夫と33年間暮らした末に別居し、離婚した女性の体験を紹介する。(斉藤正志)
■夫婦間の喜怒哀楽がない
「一人で生活しているのと同じだから離婚までしなくてもいい、と自分に言い聞かせていた。でも、こんな生活があと10年以上続くかもしれないと思うと、気持ちが切れてしまった」
神戸市に住む志保さん(66)=仮名=は取材に対し、思いを明かしてくれた。
夫の康平さん=(68)、仮名=は対人関係を築けない性格で、志保さんが話しかけても、相づちしか返ってこなかった。
けんかもないが、夫婦の間にあるべき喜怒哀楽が何もない。
そして志保さんが居心地の悪さを感じていることに、夫は気付きもしなかった。
互いに定年退職し、志保さんは自宅で長く2人だけで過ごす時間に耐えられなくなったという。
2023年に別居し、24年に離婚が成立した。
夫と出会ったのは、1989年だった。(以下敬称略)
■一方的にしゃべり、夫はただ聞いていた
「寡黙でまじめそうな人」
それが、康平に初めて会った時に抱いた印象だった。
学校教員だった志保は、職場の先輩から、2歳上の康平を紹介された。
康平は会社勤めで、洋楽を聴くのが好きと言う。
志保と趣味が合った。
康平は口数が少なかったが、志保の目には「軽薄ではなさそう」と映った。
志保は30歳。家族を持ちたいという思いが募っていた。
数カ月付き合った後、結婚した。
結婚生活は当初、悪い雰囲気ではなかった。
志保が一方的にしゃべり、康平はただ聞いていた。
康平から話しかけてくることは、ほとんどなかった。
娘2人を出産し、幸せな家庭を築いたかに思えた。
しかし10年ほどした頃、異変が起き始める。
■勤続20年の会社を退職
康平が発熱するようになり、出勤できない日が増えた。
月に何度も熱を出し、布団から起き上がれない。
医療機関で見てもらっても、何の異常もなかった。
会社の上司が本当に体調が悪いのか、自宅まで様子を見に来たこともあった。
康平は人と接するのが極端に苦手で、ストレスが積もり、体調を崩したとみられた。
康平は勤続20年になる会社を退職した。
少しずつ家庭はきしみ始める。
=続く=
<他人に無関心な夫と会話のない生活>② 料理の感想を言わず、相談しても相づちだけ そして沈黙
<他人に無関心な夫と会話のない生活>③ 「別居したい」妻の決断、夫の驚きの反応
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シリーズ「離婚」は、神戸新聞の双方向型報道「スクープラボ」の一環で、LINE(ライン)を通じたアンケートの回答者に取材しました。