地震の揺れが伝わるメカニズム
地震の揺れが伝わるメカニズム

■地震動の作用を総合判断

 世界的に見ても日本は地震が頻発する国で、安心で安全な建物を設計するためには、伝わってくる地震動が建物にどのように作用するかを理解することがとても重要です。

 地震は断層やプレート境界で発生し、地盤を通して建物に伝わってきます。そのため、建物に作用する地震動は地盤というフィルターを通した地震動といえます。私たちの足元の一般的な地盤は、岩盤と呼ばれる硬い地層の上に柔らかい地盤が堆積してできており、硬い岩盤から地震波が伝わると、表層で反射を繰り返し、地震動は増幅していきます。

 また建物は、その建物特有の揺れやすい周期(これを固有周期と呼びます)を持っています。表層地盤もその厚さや硬さによって決まる揺れやすい周期を持っており、地震波の中の揺れやすい成分が表層で特に大きく増幅します。

 建物の固有周期が地盤の揺れやすい周期に近いと、建物も大きく揺れてしまうことになります。ただここからが複雑で、建物は地盤の揺れによって揺れ始めますが、建物の揺れが反対に地盤を揺すり返します。これにより、建物に入った地震のエネルギーが地盤に戻っていく現象が起きます。

 さらに、建物の基礎や地下階は地盤の揺れに抵抗し、地盤の応答を抑える現象も発生します。建物が地震時にどんな揺れ方をするかは、地震-地盤-基礎-建物。それらが全て相互に影響し合っているということです。

 そのため、建物に作用する地震力は、地盤や基礎も含めた全体のバランスで決まります。これは「地盤と建物の動的相互作用」と呼ばれ、古くから研究が進められていますが、地震や地盤の複雑さから、実際の建築設計にどう反映するかは、まだまだ研究の余地が残されています。

 私たちの研究室では、建物や地盤で実際に観測された地震の記録を入手し、その分析を進めています。地盤と建物で同時に観測された記録からは、地盤の応答と建物の応答の関係がいろいろ見えてきます。ただ、地震観測は地震計を設置した点の情報で、その点以外は想像するしかありません。コンピューター上に地盤や建物のモデルを作り、観測された地震の動きを再現することで、地盤や建物が全体としてどのような挙動をしているかを把握しようとしています。

 先にバランスと書きましたが、自然界ではバランスがとても重要だと感じています。ある部分を強くしても、その隣は逆に壊れやすくなってしてしまいます。建物の場合もどこかを強くするだけでは恐らく不十分です。地盤-基礎-建物全体のバランスをうまくとることが必要で、その方法について研究を進めていこうとしています。