紙やペンを使って宇宙や素粒子の謎を理論的に探る
紙やペンを使って宇宙や素粒子の謎を理論的に探る

■数式から宇宙誕生たどる

 われわれの身の回りには、鉛筆やコップなど、見た目や性質の異なるさまざまなものがあります。これらはすべて分子からできており、さらに分子は原子からできていることは、学校で学んだという方も多いでしょう。では、その原子は何からできているのでしょうか。物をどんどん細かく見ていくと、「素粒子」と呼ばれる、現在知られている最も基本的な構成要素に行き着きます。

 素粒子を知ることは、宇宙の始まりを知ることにもつながります。宇宙は想像もできないほどの超高温の小さな空間として誕生したと考えられています。その後、宇宙は膨張を続け、それに伴って温度も次第に下がっていきました。

 ここで水を思い浮かべてみてください。水蒸気は冷えると液体の水になり、さらに冷えると氷へと姿を変えます。これは、水分子同士が結び付いて集まるためです。

 宇宙でもこれとよく似たことが起こりました。宇宙が膨張し、冷えていくにつれて、素粒子同士が互いに影響を及ぼし合い、結び付くことで原子が生まれ、さらに分子、細胞、生命、惑星、恒星、銀河へと、多様な構造が形づくられていったのです。

 このように宇宙と素粒子には壮大な歴史があったと考えられています。しかし、それらが実際にどのような道筋をたどって現在の姿になったのか、今でも多くの謎が残されています。

 私の研究室では、宇宙誕生から現在に至るまでの素粒子の歴史を、数式を用いて研究しています。特に私は、「宇宙という時空間そのものはどのように生まれたのか」という問いに興味を持っています。

 宇宙空間が先に生まれたのでしょうか。それとも、素粒子の世界から宇宙空間そのものが生まれたのでしょうか。まるで「卵が先か、鶏が先か」のような問いですが、その問いに挑むことは、宇宙の起源を理解する上で最も重要な課題の一つです。

 私の研究では特別な実験装置や施設を利用しません。紙とペン、そしてコンピューターが研究するための基本的な道具です。これまで先人たちが築き上げてきた物理学の知識を土台に、「宇宙がどのように誕生したのか」というシナリオを思い描きます。そして、それが物理法則と矛盾しないかを数学を使って検証していきます。そこでは既成概念にとらわれない自由な発想と、それを論理的に積み上げていく粘り強さの両方が求められます。

 私の研究室は2025年4月に開設されたばかりです。三田の地を新しい素粒子理論研究の拠点として、この地域から未来の研究者が巣立っていくことを目指しています。このコラムを通してお伝えした研究の話題が、地域の皆さまが科学に興味を持つきっかけとなれば幸いです。