和爾下(わにした)神社は、奈良県天理市の櫟本(いちのもと)に鎮座しています。神社の名前にもあるように、古代の豪族である和爾氏に関係の深い神社です。万葉集に多くの歌を残し、歌聖として知られる柿本人麻呂(かきのもとのひとまろ)も、この和爾氏をルーツとしています。和爾下神社の境内には、「柿本寺(しほんじ)」という名のお寺の跡や、人麻呂の遺髪を埋めたといわれる歌塚が今も残っています。
和爾下神社では2023年から、神社の宮司や氏子に加え、住民や作家、アーティスト、デザイナー、企業、研究者といった多様な主体が協働で地域プロジェクトを進めています。
具体的な活動としては、人麻呂をはじめとした万葉の言葉に触れる「人麻呂サロン」、人麻呂のゆかりの地と藤原宮をつなぐ街道を徹底的に歩く「上ツ道(かみつみち)ツアー」、学業成就と無病息災の願をかける「すべらないワニシタ靴下」の開発などを進めています。
プロジェクトの内容や実施体制は、あらかじめ計画的に、明確な意図をもって整えたわけではありません。最初は、「和爾下神社が地域に貢献できることは何か?」ということについて宮司さんが私のところに相談に来たことがきっかけでした。
ちょうど同じ時期、櫟本のある家から人麻呂の木像が発見されました。そこで、人麻呂像のお披露目を兼ねたワークショップを神社で開催したところ、地域資源として人麻呂や上ツ道がある一方で、地域の課題としての少子高齢化、さらに社会課題としての「言葉の暴力」といったテーマが浮かび上がってきました。
これらのテーマを統合する形で、「言霊の幸わう国(言葉の力によって幸せな社会が実現している国)」という人麻呂の言葉をコンセプトに、地域を歩きながら対話し、和爾下神社を拠点とした櫟本の地域づくりの活動を、小さく、具体的にスタートさせていったのです。
和爾下神社のプロジェクトから明らかになったのは、コミュニティーセンターとしての神社の可能性です。神社はもともと、人びとが集まり、話し合い、交流する場であり、子どもたちにとっては遊び場でもありました。
鎮守の森は、多くの生き物や植物を育むエコロジカルな空間でもあります。そのような場で、人びとは互いに協力しながら不安や困難を乗り越えようとする態度を醸成してきました。
つまり神社は、社会環境と、自然環境、精神環境を統合的に健全にする実践の場なのです。伝統的なコミュニティーセンターとしての神社の機能を再生し、維持する方法を、和爾下神社での取り組みを通じて考えていきます。























