学校の敷地内で育てている稲を観察する児童たち=井吹東小学校
学校の敷地内で育てている稲を観察する児童たち=井吹東小学校

 神戸市西区のニュータウンにある井吹東小学校で、5年生の児童らが稲作に挑戦している。「この田んぼ、お茶わん何杯分になるんやろ」「えー、100杯ぐらいちゃう?」。青々と伸びた稲の葉を前に、手入れする子どもたちは興味津々だ。取り組みのきっかけには、お米をこよなく愛する一人の「小学生農家」の存在があった。(末吉佳希)

 6月中旬、小雨がぱらつく中、同校で田植えがあった。コンクリートで囲われた池(縦約7メートル、横約2・5メートル、深さ約0・5メートル)に水田から土を運び、水を張った「田んぼ」に、子どもたちが恐る恐る足を入れた。「なんか変な感触!」「足が抜けん」。はしゃぎながらも、目印の糸に沿って苗を植える子どもたちに、慣れた手つきで手本を見せる男児がいた。

 今回の「稲作プロジェクト」のきっかけになった同小5年の新宅佑輔君(10)だ。「何よりも白米が大好き」といい、2年前から試行錯誤を重ねながら稲作を研究している。同級生との田植えに、「友達と一緒にやる米作りは新鮮で、とにかく楽しいわ」と笑顔を見せた。

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 新宅君と稲作の出合いは2021年。「大好きなお米がどうやってできるんだろう」という素朴な疑問から、米作りを決意した。同市西区神出町宝勢の休耕田を借り、地元農家に手ほどきを受けながら無農薬米の生産を始めた。

 300キロの収穫を見込んだ1年目は、台風直撃による強風や長雨で稲穂が倒れ、収穫できたのはわずか45キロ。対策を研究した2年目は、風で倒れにくい品種を選んだほか、雨風で倒れるたびに稲穂同士を束ねて立たせるなどの工夫を凝らし、目標の300キロ超えを達成した。

 難敵だった雑草対策では、こまめに手で抜くだけでなく、雑草を餌とするカブトエビを使った手法や、冬から水を張ることで、草を増やさない効果のある「冬期湛水(たんすい)」の農法を取り入れた。米作りの記録をまとめた自由研究は、一昨年の「神戸市小学校理科・生活作品展」で入賞した。

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 今回の稲作プロジェクトは、同小が昨年から総合学習の一環として取り組む。佐伯和恵校長は「佑輔君のお米作りに対する情熱や経験を他の児童に共有してもらい、自然と触れ合う素晴らしさを体験してほしかった」と力を込める。

 稲の成長を子どもたちに間近で見てもらおうと、校内の池を田んぼに転用。苗は、新宅君が昨年収穫した種もみから育てたものを使った。新宅君の経験を生かし、根の活性化のために途中で水を抜いて乾燥させたり、カブトエビを繁殖させたりした。

 田植えの後、子どもたちは朝の登校時や休み時間、放課後と、田んぼに様子を見に来ては「元気に育ってね」と稲に声をかける。

 秋には、待ち遠しい収穫が控える。稲は手刈りし、足踏み脱穀機でもみ殻を取り除く。精米後は釜で炊き上げて、みんなで頬張る予定という。

 田植えから約1カ月後、児童らの腰の位置まで育った稲を見つめ、新宅君が言った。

 「うん、今んところ上出来や。はよ食べたいわ」