今シーズン、マツダスタジアムに導入された大雲海の装置(霧のいけうち提供)
今シーズン、マツダスタジアムに導入された大雲海の装置(霧のいけうち提供)

 災害級の酷暑が例年のように日本列島を襲う中、霧を使った冷房装置を街で見かける機会が増えている。打ち水効果で体感温度を下げ、消費電力はエアコンの約40分の1に抑えられるのが魅力だ。兵庫県西脇市に生産拠点を持つスプレーノズル製造大手「霧のいけうち」=大阪市西区=は独自技術の「ぬれない霧」を応用し、限定されたエリア全体を霧で覆う「大雲海」を開発。視覚的にも涼しげで、大型の商業施設や日本庭園、野球場などでの導入事例が注目を集めている。(伊田雄馬)

 霧の冷房装置は2005年の愛知万博に導入されて注目を集めた。ランニングコストの安さや見た目の涼感から、東京駅のバス停やイベント会場、教育施設でも導入が進んでいる。

 西脇市内では、2年前に完成した市役所新庁舎の屋上テラスに設置され、市民が涼める憩いの場になっている。23年度は同市の黒田庄こども園の廊下にも導入された。気温が28度を超えると霧が出る仕組みで、園児は心地よい霧を浴びて酷暑をしのいでいるという。同園の荻野隆之園長は「子どもたちはとても喜んでおり、設置して良かった」と笑顔で話す。

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 「霧のいけうち」によると、同社の霧の冷房装置「セミドライフォグ」は、水滴を霧雨の10分の1ほどの超微細な粒子にして、ファンで空気中に放出する。人体に触れると即座に気化するため、ぬれることはないという。

 同社は1954年、広島県呉市で繊維機械を扱う貿易商社として創業。創業者がレーヨンを紡ぐ機械に使う口金に着目し、世界で初めてセラミック製スプレーノズルの開発に成功した。その後、ノズル本体だけでなく、霧を発生させるシステム自体も取り扱い始め、霧の発生システム販売業界ではトップシェアを占めるという。

 西脇市では79年に最初の工場を開設。最新設備を導入し、2019年に開設された上比延工場では、セミドライフォグをはじめとする冷房装置のほとんどを生産している。

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 もともと、セミドライフォグは農業分野での活用が先行していた。「冷房と加湿、薬液散布を同時に行える」(同社)のが利点という。畜産動物の夏バテ対策が中心だが、園芸作物では西脇市内で、霧で水分と栄養を供給するトマトの自社栽培にも取り組んでいる。

 近年、夏の暑さが厳しさを増すとともに、オフィスビルや商業施設での需要が拡大してきた。エアコンと異なり、室外機からの排熱が必要ない点も人気という。

 新たに開発した大雲海は、従来以上に強く霧を噴出できるノズルを使用。エリア全体を霧で覆い、視覚的なインパクトも大きい。

 島根県の日本庭園「由志園」では10月まで、定期的に園内を霧で覆う催しを開催中。時代絵巻のような群雲が一面を覆い、幻想的な雰囲気に包まれる。

 プロ野球広島カープの本拠地、マツダスタジアム(広島市)の球場内にも導入された。シーズン終了までイニングの合間に噴霧され、球場を訪れたファンを楽しませている。

 同社上比延工場の増田雄一さんは「やろうと思えば、竹田城のような雲海でも人工的に作れる」と自信をのぞかせる。