新型コロナウイルスの感染「第4波」がピークを迎えた2021年4月以降、神戸市立医療センター中央市民病院の医療チームは市内各地を巡回した。異例の訪問診療だった。
第4波では入院待ちの重症患者が急増し、中央市民病院のコロナ病床も逼迫(ひっぱく)した。命の危険が迫る患者さえ受け入れられない状況に医療者は心を痛めていた。そんな時、神戸市保健所から訪問診療を要請される。4月20日。待機中の40代男性が市内の自宅で死亡しているのが見つかった日だ。
脳神経内科部長、川本未知(59)が態勢や実施方法をまとめた。診療開始は要請のわずか3日後だった。
現場に赴くのは、コロナ診療の中核を担う呼吸器内科や感染症科の内科医ら。酸素治療を開始し、ステロイド投与で肺炎の悪化を防ぐ。川本は「病状がこの先どうなるかを的確に判断する必要があった。そのためのメンバーを選んだ」。
当時は感染者に対する偏見や差別が根強かった。メンバーは目立たないように玄関先で防護具を着け、車もなるべく遠くに止めた。