戦時人形を手がけてきた村上しま子さん=西脇市西脇、旧来住家住宅
戦時人形を手がけてきた村上しま子さん=西脇市西脇、旧来住家住宅

 戦時中の庶民の暮らしを「戦時人形」として表現してきた西脇市の人形作家、村上しま子さんが、戦中戦後の国民の暮らしや記憶を伝承する国立施設「昭和館」(東京)に寄贈していた作品約70点が「収蔵スペースに限りがある」などの理由で本人に返還されていたことが分かった。犠牲になった兵士の供養にと作品を作り続けてきた村上さんは今年94歳。戦争の記憶が薄らいでいく中、新たな寄贈先を探している。(金井恒幸)

■兄が戦死、西脇の村上さん作 庶民の記憶伝える70点

 村上さんは1931年、5人きょうだいの末っ子として鳥取県で生まれた。

 4歳で母親を亡くし、長兄が出征する直前、父親を病気で失った。2人の姉は嫁ぎ、次兄も炭鉱へ働きに出たため1人になった。農業や家事をこなし、大人の中で周囲を観察するうち、当時の情景を記憶していったという。

 戦後、播州織の工場で働くため西脇市に転居。フィリピンで戦死した長兄の五十回忌を機に人形作りを本格化させた。戦時下の庶民の喜怒哀楽が伝わる、と人気を呼び、兵庫や鳥取を中心に50回以上の作品展を開いてきた。

 人形作りに区切りを付けたのは戦後70年だ。昭和の国民生活に根付いた歴史的資料を収集、保存し、次世代に伝える「昭和館」に2017年、作品の大半を寄贈した。