NHK連続テレビ小説「あんぱん」のモデルで、漫画家のやなせたかしさんが作詞した楽曲「光る海の城」が、神戸・ポートアイランドの義務教育学校港島学園で歌い継がれている。作曲はいずみたくさんで、名曲「手のひらを太陽に」を共作した大御所2人が手がけた歌だ。なぜ、そんな楽曲がポーアイの学校に残るのか。始まりは1981年に開かれたあの博覧会だった-。(田中宏樹)
♪光る光る海の城ポートピア 光る光る海の城ぼくらの夢
同学園小学部の教室に爽やかな歌声が響く。児童が朝の授業前に合唱する「毎月の歌」に毎年、この楽曲が選ばれている。今年は7月に軽やかなメロディーが校内に流れた。6年生の岩谷周(あまね)さん(11)は「歌うとワクワクし、明るい気持ちになれる」と声を弾ませる。
同学園は2016年、港島小学校と港島中学校を義務教育学校に移行して誕生。港島小は1980年に開校し、その翌年、「世界初の海上都市」とうたわれたポーアイを会場とする「神戸ポートアイランド博覧会」(ポートピア’81)が催された。同学園前期課程総括副校長の辻敏彰さん(54)は「光る海の城は博覧会に合わせて作られたようだ」と話す。
博覧会の公式記録によると、開幕約500日前の79年11月3日、人気グループ「ゴダイゴ」がテーマソング「ポートピア」を発表。ほかにも博覧会をテーマとした楽曲が次々作られ、その一つが「光る海の城」だった。81年3月に博覧会協会に楽譜が贈られ、幼児向け番組「おかあさんといっしょ」の「うたのおねえさん」を務めた歌手奈々瀬ひとみさんと、神戸の児童合唱団による歌がレコード化されたという。
同学園に残る資料には、楽曲を手がけたやなせさんといずみさんが「子どもの心で歌ってもらえたら」と願い、神戸市教育委員会にレコードを寄贈したと記載がある。いずみさんと奈々瀬さんが港島小で、地域の園児や小中学生に歌唱指導もした。開校間もない同小に校歌はまだなく、ポーアイに縁のある楽曲が愛唱歌として親しまれるようになったという。
義務教育学校へ移行後も「光る海の城」は歌われ続けた。当時贈られた楽譜はすでになく、音楽教員が手書きした譜面と音源データが代々引き継がれている。辻さんは「第2校歌と言えるぐらい歴史ある曲で、この学校に通った人はみんな歌える」と話す。
校舎には、2008年度の卒業生が歌詞を彫った木製パネルも飾られている。同学園では校舎の大規模改修が進んでおり、将来的にはパネルを写真や動画で保存し、学校のホームページで公開することを検討しているという。
「縁あって贈られ、45年近くも脈々とつないできた歌をずっと大切にしないといけない」と辻さんは力を込める。6年生の井野琥太郎さん(11)も「僕たちが卒業しても、この学校の子どもが楽しく笑顔で歌い続けてほしい」と願った。