碁盤状の通りに沿い、整然とビルが立ち並ぶ。10月25日、小雨のやんだ仙台市街。街路樹の下で、参政党の神谷宗幣代表が演説に立った。宮城県知事選、投開票日の前日だ。
「だめですよ。デマまいちゃ。でもそうやって(デマが)飛び交うのが選挙。お互いさまでしょ」
声を上げる神谷氏に歩道を埋めた人々が熱烈な拍手を送る。傍らには現職の村井嘉浩氏(65)と接戦を演じる新人候補、元参院議員の和田政宗氏(51)がいた。
神谷氏の応援は告示後4度目。聴衆はどんどん増えた。近くの服飾店の男性店員(39)は「今までいろんな政治家がここで演説したけど、あんな盛り上がりは初めて」と振り返る。
自身は交流サイト(SNS)で見た「村井氏が土葬を推進する」との情報を信じ、和田氏に投票した。土葬は「SNS選挙」と化した知事選で偽・誤情報の発生源になった話題だ。
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夏の参院選で「排外主義」と批判されながら躍進した参政。党を挙げて参戦する知事選に宮城を選んだのには因縁がある。
3カ月前の7月、神谷氏は参院選の候補者応援で仙台市に入り、宮城県が「水道事業を外資に売った」と発言。これに反論した村井氏との応酬が始まる。9月には参政が和田氏と政策覚書を交わし、知事選での全面対決が決まった。
X(旧ツイッター)のフォロワー38万人を抱える神谷氏の影響力で、知事選に関するSNSや動画の投稿数は急増した。
そして告示後、三つの話題がSNSを席巻する。土葬用墓地、外資がからむ県の水道事業の民営化、メガソーラーだ。村井氏はネット上でその全ての「推進派」と決めつけられた。
一つ目の土葬用墓地は、村井氏が外国人共生施策の一環として昨年10月に県議会で突然、検討を表明。県内外の反発を招き、今年9月に白紙撤回した。設置許可は市町村の権限で、県議会も後ろ向き。村井氏に実現の見通しはなかった。
二つ目の水道事業。確かに宮城の「官民連携事業」に外資系大手の日本法人が出資しているが、最大株主は日本企業。さらに水道施設の所有権はあくまで県にある。最後のメガソーラーは、村井氏が推進を訴えたことはない。
「経緯も論点も全く違う三つのテーマが『村井知事が外国人に宮城を売り渡そうとしている』という大きな物語でつなげられた」
村井氏を支援した自民県議の菊地恵一氏(67)はそう分析した。
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参政は三つの話題に繰り返し触れ、世論のうねりを起こした。福祉より経済成長を重視するイメージが強い村井氏に対し、和田陣営は「減税」や「子育て完全無償化」も主張して若い世代に浸透した。
石巻市の団体職員の女性(53)は、社会人になったばかりの息子がSNSを見て「村井はやばい」と口にしていたと話す。「世代間で全く見える世界が違うんだと思った」と戸惑いの笑みを浮かべた。
飛び交う誤情報。強烈なインフルエンサーの後押し。演説に熱狂する人々と、抗議する人。その景色は1年前の兵庫県知事選と重なる。村井氏は薄氷の勝利の理由を「間違いなくデマと誹謗(ひぼう)中傷。皆さんに誤解された」と強調する。
だが、周囲はSNSのせいだけではないと指摘する。
知事選で得票率3位だった遊佐美由紀氏(62)は「強権的な政治手法や多選への批判票もかなりあったはず」とみる。「5期20年で人の話を聞かなくなった」との声は村井氏の陣営からも漏れた。支援したある県議は言った。
「苦戦は身から出たさびでもある」
























