かつてワインの生産が盛んだった神戸で、地元産ブドウを原料に醸造する動きが広がってきた。ワインに魅せられた飲食店オーナーやスーパーコンピューターの元広報責任者、灘五郷の清酒大手-。多彩な顔ぶれの新たな担い手たちがこだわりのワイン造りに挑み、「ワインの街」として存在感を高めつつある。(尾仲由莉)
■「生産」を感じるワインを
神戸市北区大沢町に今夏、ブドウ畑のそばに醸造所が誕生する。準備を進めているのは、同市中央区で飲食店やワインショップを営む宮本健司さん(54)だ。
宮本さんがワインに興味を持ったのは、世界を巡っていた約20年前。ヨーロッパでは、化学農薬を使わずに育てられたブドウを原料に、天然酵母だけで造るナチュラルワインという製法に戻る動きがあった。口に含むと「造られた背景がばーっと見えた」。均一に整えられた工業品ではなく、畑や農家などの「生産」を感じるワインを神戸でも-。そんな夢を描いた。
2007年、神戸・三宮に飲食店を開き、ナチュラルワインを飲み比べるイベントなども開催を重ねる一方、同市西区や北区でブドウ栽培の研修に励んだ。果樹栽培が盛んで、幼少期を過ごした長野県に戻る選択肢もあったが、転機は22年。研修していた北区の畑で、後継者不足や木の高齢化により、一部を伐採する話が持ち上がった。「半分は引き継いで立て直していく」。地域の関係者を説得し、畑2・4ヘクタールを引き継ぐことになった。
「ブドウ栽培からワインの醸造、レストランでお客さんに注ぐまで神戸で完結させたい」。ナチュラルワイン用のブドウ栽培を始めたが、農薬が使用されてきたブドウの木は、農薬を打ち切ると、免疫がなく病気がまん延。時間をかけて、納得のいく質のブドウが採れる畑へと再生させた。
現在、畑のそばで醸造所の開設準備が進む。早ければ今年中にワインの販売を始める。宮本さんは「全て自分で手がけたワインを、自分のワインショップで販売し、農地とまちをつなげたい。神戸のワインが、神戸市民の日常に溶け込んでいってほしい」
■駅近に醸造所、売りはロゼ
神戸では近年、新たな担い手によるワイン醸造が始まっている。
神戸市中央区の阪急春日野道駅から徒歩3分、住宅や商店が並ぶ「まちなか」に24年、「きら香ぶどう酒醸造」が開設された。神戸の特産物を原料にするなど要件を満たすことで、小規模醸造が認められる「神戸果実酒・リキュール特区制度」を活用した初の醸造所。代表の辛木哲夫さん(66)は、神戸・ポートアイランドのスパコン「京」や「富岳」の広報業務に携わった経歴を持つ。
きら香の売りはロゼワイン。神戸のブドウは、北海道や長野と比べると糖度が少なく、アルコール度数が低いロゼが合うという。
まだロゼの国内需要は少ないが、「だからこそ開拓したい」と辛木さん。同業者らとワークショップを開くなど、ワインの質を高める取り組みにも力を注ぐ。
昨夏から醸造してきたワインの販売がスタート。「今回は白ワインもおいしくできた」と自信を見せる。
■清酒大手が初の商品化
清酒大手、白鶴酒造(神戸市東灘区)は昨秋、初の自社醸造ワインを販売した。
同社は神戸市の外郭団体、神戸農政公社(同市西区)から「神戸ワイン」事業を受け継ぎ、原料には、同市西区と北区にある農園計約40ヘクタールで栽培されたブドウを使用。神戸ワイナリー(同市西区)内の設備を使って醸造、商品化した。
神戸ワインは1984年に販売を開始。90年代には100万本を売り上げたが、近年は需要低迷などで苦戦してきた。
同社は、長期熟成させた高級ワインの投入を検討するなど、品ぞろえを強化し、今後5年で売上高2倍を目指しているという。
きら香ぶどう酒醸造への問い合わせはインスタグラム=QRコード=のメッセージで受け付ける。白鶴酒造お客様相談室TEL078・856・7190(平日午前9時~午後5時)

























