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岩津ねぎの販売が解禁された11月23日には多くの人が旬の味を求めて手に取った=道の駅「但馬のまほろば」
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岩津ねぎの販売が解禁された11月23日には多くの人が旬の味を求めて手に取った=道の駅「但馬のまほろば」
Uターンして岩津ねぎを栽培する若手農家の鴨谷康隆さん=朝来市
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Uターンして岩津ねぎを栽培する若手農家の鴨谷康隆さん=朝来市
県北部農業技術センター上席研究員の小河拓也さん=朝来市和田山町安井
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県北部農業技術センター上席研究員の小河拓也さん=朝来市和田山町安井

 「甘い、太い、軟らかい」の三拍子そろった冬の味覚、兵庫県朝来市の特産「岩津ねぎ」が出荷の最盛期を迎えている。販売解禁初日の11月23日には採れたてのネギが市内の道の駅などでどっさりと積まれた。ところで、かつては福岡県の博多万能ねぎ、群馬県の下仁田ネギと並ぶ「日本三大ネギ」として紹介されることも多かったが、この表記、近年はあまり見られなくなった。そもそも「三大」って、何が大きいのだろう。(竜門和諒)

 岩津ねぎは江戸時代、生野銀山の労働者が冬季に食べる野菜として、京都の九条ネギを栽培したのが始まりとされる。昭和初期に関東の千住系ネギと交配させ、白根と青葉の両方を味わえるネギを生み出した。

 現在は市内の約28ヘクタールで栽培され、出荷量は約260トン。これはネギとして「大産地」なのか。九条ネギについて京都府農政課に聞いてみると、昨年は約250ヘクタールで栽培され、約6500トンが出荷されたという。生産規模で岩津ねぎは「三大」に入りそうもない。

 「太さ」かといえば、博多万能ねぎは細い。「長さ」で見れば、下仁田ネギは長くない。考えれば考えるほど「三大」の意味が分からない。

 朝来市岩津ねぎ生産組合の米田隆至組合長(75)によると、「三大ネギ」は30年以上前から使われているが、誰が最初に言い出したのかは不明という。かつては同市岩津地区に大きな看板を立てるなどアピールしていたが、他の産地から「三大」の根拠を問われることも多く、答えに窮していた。同組合は近年、この表現の使用を自粛している。

    ◇

 同組合には約250人が所属するが、多くは70代以上。市や組合は若手の育成を急いでおり、ここ数年で徐々に増えているという。

 大阪での会社員生活を経てUターンした鴨谷(かもたに)康隆さん(36)=同市=は、同組合に所属する生産者の一人。栽培3年目の今年は「鴨葱農園」の屋号を新たに掲げ、インターネット販売にも挑戦する。

 栽培は1年がかり。鴨谷さんの畑では収穫を終えるとすぐに畑を耕し、3月末には種をまいて育苗に取りかかる。5~6月に定植。夏場の草引きを続け、気温が下がる秋には白根を伸ばすために土をかぶせる「土寄せ」を繰り返し、販売期間に合わせて収穫する。

 11月下旬に訪ねると、解禁に合わせて収穫に追われていた。一本一本手で引き抜き、土を落として積み上げる。自宅で規格通りに分類して袋詰めし、道の駅などに出荷する。

 「想像していたよりも大変な仕事だが、自分の考えた通りに育った時のやりがいは大きい。将来は岩津をネギ畑で埋めたい」と夢を膨らませる。

    ◇

 解禁初日。道の駅「但馬のまほろば」(同市山東町大月)では、買い物客が「立派やなあ」「めっちゃ太い」などと品定めをしていた。1年の労を“ネギらう”贈答品として、京阪神にも多く出荷されている。

 米田組合長にはアイデアがある。「品質は日本トップクラスと自負している。名だたるネギという意味で『日本三名葱(そう)』と名乗るのがいいのでは」。200年以上続く産地のブランドをさらに広めようと、模索は続く。

■岩津ねぎの美味しさの秘密は

 「甘い」と表現される岩津ねぎの味の秘密は-。他品種のネギの成分と比較分析し、2007年に論文「『岩津ネギ』の品質特性」をまとめた兵庫県北部農業技術センター(朝来市和田山町安井)上席研究員の小河拓也さん(55)に聞いた。

 研究では、白ネギの「十国」と「冬扇」、白ネギと青ネギの兼用品種「下仁田ネギ」、同センターと県農林水産技術センター(同県加西市)で育てた岩津ねぎ2種類の計5種類を比較。いずれも12月14日と1月17日の2回に分けて収穫し、白根と青葉に分けて品種、時期による違いを調べた。

 糖分を比較すると、いずれの品種も大差なかった。では、なぜ甘いとされるのか。その秘密は「水分量」にあるという。

 水分が多い白根で比較すると、1月収穫分では朝来の岩津は92・4%なのに対し、下仁田は89・4%、十国は89・9%、冬扇は91・8%。小河さんは「小さな差だが、1~2ポイント差でも味に違いが出る。5ポイント下がればカラカラになり、売れなくなる」と説明する。

 朝来と加西でも大きな差が出た。朝来では12月から1月にかけて糖も水分も増加しているのに対し、加西ではいずれも減少していた。朝来の冬の気温の低さや、土壌水分を含む湿度の高さが、生育にプラスに働いているとみられる。

 針を刺して抵抗力を測る調査では、朝来の岩津は最も軟らかかった。小河さんは「水分が多く、軟らかいことで甘みを感じやすくなり、おいしいと感じるのでは」と推察する。

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