JR山陰線と播但線を合わせて東西南北に110キロ以上もの線路が延びる兵庫県但馬地域。そのほぼ全線(浜坂-諸寄を除く)を鉄道ファンの記者が5日間かけて巡った。新型コロナウイルスの感染拡大や、ダイヤ改正が行われる中で、利用状況に変化は生じているのだろうか。記者が見た最新事情を報告する。(桑名良典)
■■和田山-城崎温泉
13日午後2時すぎ、和田山駅。明智光秀のラッピングがされた特急「こうのとり」に乗り込む。4両編成の車内を巡ると、乗車率は6割程度だ。大阪から来たという隣席の60代夫婦は、すでにほろ酔いで「車ではお酒も飲めない。やっぱり電車が一番」と上機嫌だ。
午後3時前、城崎温泉駅に到着。大阪からの女性3人組は「1年に1度はカニを食べに来るのが楽しみ」。駅前には旅館の送迎用ワゴン車の列。旅館のチェックインは午後3時が多く、帰路に就く団体と鉢合わせになる。ピークの時間だ。
それでも駅員に聞くと「コロナ禍以前に比べ、まだまだ」と浮かない顔だった。
■■諸寄-鳥取
14日午前8時20分、諸寄駅に着く。ホームの端から日本海が見える。風の加減で時折、波の音も聞こえる。掲示された時刻表にある鳥取方面行きの列車は平日15本、休日13本。ダイヤ改正で減ったようだ。待合室で新温泉町が駅の歴史をまとめたノートを発見。1938(昭和13)年に通年営業で開業したとあった。
オレンジ色の2両編成「キハ40系」に乗り、鳥取駅へ向かう。香住駅から乗車した女子高校生3人組が「鳥取でショッピングです」と笑顔で話してくれた。香美町にとって鳥取は身近な存在のよう。
■■和田山-福知山
15日午前7時半、和田山駅のホームに中高生の列ができていた。高校生に話を聞くと、福知山成美高校生だと教えてくれた。
「今日、登校するのは1年生で部活動のある子だけ。だから少ない方ですよ」
学級数は1学年10クラスという。山陰線で京都府のマンモス校に通う生徒が意外に多いことを知る。
茶色の革靴が似合う京都共栄学園中の男子生徒は「今までは4両編成だったが2両編成になった。4月からは混雑しそう」と心配していた。乗車時間35分で福知山駅に到着。結構近い。
■■豊岡-浜坂
15日午後9時すぎ、豊岡駅から浜坂駅行きの最終列車に乗る。ダイヤ改正で香住駅までの最終としては約50分繰り上げに。他に、塾帰りとみられる高校生と、会社員が数人。スーツ姿の2人は隣の玄武洞駅までで、「快速がなくなり、すべて玄武洞駅に止まるので、かえって便利」と笑顔だ。
そこから浜坂駅に着くまで3度、激しい警笛音が響いた。シカがよく通るためという。午後10時40分に到着。定刻より5分遅れ。近くの旅館で1泊した。
■■浜坂-豊岡
16日午前6時すぎ、朝一番の冷えと静けさを感じながら再び浜坂駅へ。駅前には全但バスの大阪行き特急が停車していた。午前6時21分発で大阪着は9時52分。これから乗る午前6時30分発の特急はまかぜは10時1分大阪着。ほぼ互角だ。
浜坂駅から乗り込むのは記者1人。鳥取方面からの先客が2人いる。竹野駅でようやく乗客が乗ってきた。声を掛けると休暇村竹野海岸の営業担当者だという。
「大阪で旅行社を数カ所回り、最終のはまかぜで帰る」という。JRは一部特急の運休などを進めるが、「困ります」ときっぱり。
■■寺前-八鹿
今回のダイヤ改正の目玉の一つが播但線と山陰線をつなぐ直通列車だ。17日午前7時26分、寺前駅(神河町)発の1両編成に乗車。ディーゼル音が響く。従来は終点の和田山駅を経由し、豊岡駅へ向かう。
これまでの午前7時27分発は和田山駅で1時間以上の乗り換え待ちがあったが、直通で行ける。生野高生や通勤客が多く、5日間の取材で最も混雑していた。
豊岡駅からさらに乗り継いで香住駅まで行くという観光客は、この列車を選んだ理由を「鈍行で節約し、カニに全力投入したい」と話した。地域住民だけでなく、観光客にとってもメリットがありそうだ。
記者は支局のある八鹿駅で途中下車。5日間の取材を終えた。
