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黄金色の輝きを放つススキ。澄み切った秋の空によく映える=上山高原
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黄金色の輝きを放つススキ。澄み切った秋の空によく映える=上山高原
20年ほど前はササが生い茂るだけの草原だった=上山高原
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20年ほど前はササが生い茂るだけの草原だった=上山高原
ミズナラ林を伐採して新たに復元が進むエリア。今はまだ荒野のようだ=上山高原
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ミズナラ林を伐採して新たに復元が進むエリア。今はまだ荒野のようだ=上山高原
夏には但馬牛が放牧される。牧歌的な世界が広がる=上山高原
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夏には但馬牛が放牧される。牧歌的な世界が広がる=上山高原
廃校で乾燥作業が進む上山高原のススキを使ったカヤ=新温泉町石橋
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廃校で乾燥作業が進む上山高原のススキを使ったカヤ=新温泉町石橋

 兵庫県新温泉町南西部に広がる上山高原で、ススキ草原の再生が住民たちの手で進んでいる。発端となったのは1995年の天然記念物ニホンイヌワシの生息確認。それ以降、えさ場確保を目指し、間伐や苗の育成、植樹、定期的な火入れなど地道な作業を続けてきた。活動20年余り、草原の「復元」は徐々に進み、繁殖も期待されるまでに。生態系の保全活動からススキを活用した魅力発信へ、地域活性化への模索が続く。(末吉佳希)

 ■リゾート計画    

 上山高原は、同町と鳥取県境にまたがる扇ノ山の山麓に位置する。兵庫と鳥取、岡山3県にまたがる「氷ノ山後山那岐山国定公園」の一角を占める。ブナの原生林など豊かな自然が残り、行楽客が多数訪れる。

 4月上旬、標高900メートルの高原に足を運んだ。春とは名ばかりで、肌寒く、谷あいでは残雪が。「ここは昔、リゾート開発の話があったんや」。興味深い話を、同町の奥八田地区の住民らでつくるNPO法人「上山高原エコミュージアム」の馬場正男事務局長(69)が教えてくれた。

 その経緯を知るために、草原の歴史を学んだ。ここは古くから農耕牛の放牧や採草地として維持されてきた。しかし、農業技術の発達や人口減少で、昭和50年代に日本海や山並みを一望できる別荘地として集客し、地域内の交流を促す活性化策が浮上した。

 ところが、バブル崩壊などで計画は頓挫。そんな折に舞い込んだのが、初のイヌワシ確認だった。1995年、環境保全への機運も相まって、住民たちは自然を生かしたまちづくりにかじを切った。

 ■地道な挑戦     

 2001年、住民たちは「地域をまるごと生きた博物館に」と、「エコミュージアム」の構想を立ち上げた。自然や伝統を後世に残そうとする取り組みに、県や専門家なども巻き込んで、体制が整った。

 しかし、挑戦は初期から困難を極める。長らく放置された草原は低木やササの繁茂で見る影もなかった。ブナ林の原生林も、スギの人工林に姿を変え、イヌワシのえさ場としての機能はほど遠い状況だった。それでも会議を重ね、荒れた草原や原生林の復元を当面の目標に据えた「復元プロジェクト」を立ち上げた。

 地味ながら前に進み始めた事業。ボランティアらが人工林を約11ヘクタール間伐し、「ブナ苗ホームステイ」と銘打って家庭で育てた苗を1万株ほど植樹した。毎年春には住民を交えた「モニタリング報告会」を開く。イヌワシの成育状況や植生の変化などを議論し、当面の課題を共有する貴重な機会となってきた。

 成果は目に見えるかたちに。刈り取り作業や定期的な火入れなどの組み合わせを工夫し、ススキ草原は甲子園球場の約9個分の面積にあたる約34ヘクタールが復元。16年からはミズナラなどの低木林を間伐し、草原を約8ヘクタール広げる試みが続く。夏場は、青々と茂る草原で放牧された牛が草をはむ。「但馬牛も手入れを手伝ってくれてますよ」と馬場さん。

 ■広がる交流     

 多様な生態系を育み、地域の活性化につなげる住民たちの挑戦は、思わぬ交流を生み始めた。都市部の住民が、草原の再生への取り組みを支援する輪が広がった。自然観察やススキの刈り取り作業などが体験できる「エコフェスタ」には毎回100人ほどが参加する。海上地区にある絶景スポット「シワガラの滝」が雑誌で紹介されると、団体向けのツアーにも参加が殺到するようになった。

 また、活動開始から20年、扇ノ山周辺にはイヌワシのペアが定着したという。県立人と自然の博物館(兵庫県三田市)の研究員でイヌワシを追い続ける布野隆之さん(44)は「イヌワシが生息することが、高原を含む一帯がえさ場や営巣地として魅力を持っている何よりの証明」と力を込める。今年は若い雄が繁殖可能な年齢に達したことから「住民の悲願だった繁殖もそう遠くはないのでは」と分析する。

 同ミュージアムの代表理事を務める中村幸夫さん(73)は「小さな積み重ねが大きな成果につながった。繁殖は住民たちの悲願。待ち遠しいなぁ」と声を弾ませた。

    ◆

 上山高原エコミュージアムの一番の命題は、草原の再生だが、活動はそれだけではない。自然観察会を主催したり、情報発信したりと幅広い。中にはカヤとして販売する事業もある。会員たちが、それぞれの「部会」に所属して活動し、地域全体で「まるごと博物館」の充実を目指している。

 部会は五つに分かれる。自然再生に取り組む保全部会▽女性会員らを中心として干しシイタケやかき餅など特産品を手掛けるサテライト部会▽自然観察会などでガイドを務めるプログラム部会▽情報発信を続けるPR部会▽植生調査に取り組む調査研究部会-。いずれも「地域の伝統を後世に残す」という方針によってつくられた。

 近年の目玉事業は、刈り取ったススキを使ったカヤの販売。2016年から「淡河かやぶき屋根保存会くさかんむり」(神戸市北区)と連携して、昨年は約1500束を収穫した。上山高原のカヤは強さと柔軟さが兼ねそろう「べっぴんさん」として好評だという。

 同ミュージアム理事の中村幸夫さんは「会員がそれぞれの知識やスキルを生かす場を持つことで、全体の成長につながっている」と力を込める。(末吉佳希)

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