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 「カード買いたいんやけど」。4月4日、日曜日の夜、兵庫県養父市内の大手コンビニ店を出たところで、後ろから女性に声を掛けられた。振り返ると、50代くらいの女性が財布を手にしていた。

 「支払わんといけんのやけど、よく分かれへんから教えてほしい」。私(33、女性)が直前に現金自動預払機(ATM)を使っていたのを見かけたのだろう。「機械触ってたから分かるかな」と思ったようだ。

 「コンビニ」で「カードの購入」「支払い」-。聞いたことのある文言が並ぶ。「これ、詐欺ちゃう?」と心の中でつぶやいた。

 「カードって電子マネーのことですか」。尋ねると、女性は困った顔で「よく分からへん」と繰り返す。とりあえず店内へ。電子マネーのプリペイドカードが並ぶコーナーに向かった。

 目線の高さから足元まで、いろんなロゴの商品。数千~数万円の価格別に100種類ほどがずらりと陳列されている。アマゾンギフト券、楽天のポイントギフトカードはかろうじて分かるが、ほとんどは見たことすらない。

 女性に、カードの種類や金額などを尋ねるが、ずらりと並んだカードを前に、「うーん」と言いながら、目線を往復させるだけ。

 種類も分からないまま買おうとするくらい焦っているようだった。

     ◆   ◆

 新聞社に入って10年近く。「○○市の女性が『××円をだまし取られた』と△△署に届け出た」などと被害を報じる記事を、数えられないくらい書いてきた。しかし、遭遇するのはもちろん初めてだ。

 ふっと、3カ月前のことを思い出した。振り込め詐欺を未然防止した女性銀行員が、警察署長に表彰されるときに話した言葉だ。

 「いきなり『詐欺ですよ』と指摘すると、心を閉ざして話を聞いてもらえなくなる。相手を否定しないように心掛けている」

 これまで「水際阻止」をした人から同じようなことを聞いていた。

 女性と一緒にしゃがみこんで、「見た目やデザインはどんな感じですか」などと女性に尋ねながら、カードを探した。

 「前はちゃんと払えたんやけど」。しばらくすると、女性はそう言って、店内のマルチメディア端末へすたすたと歩いていった。

 女性が端末の画面に表示された「プリペイド」のボタンを押すと、コーナーに置いてあるカードと同じ商品のロゴが表示された。

 商品と金額を選択し、端末から出てきたレシートを持ってレジで清算すると「プリペイド番号通知票」が受け取れるらしい。

 女性は以前、電話で指示を受けながら買ったことがあるのだろうか。あるいは、今回のように他のお客さんか誰かに教わりながら購入したのかもしれない。

 「今回はこれじゃないみたい」。女性はおもむろに操作をやめた。

     ◆   ◆

 そこで切り出してみた。

 「支払いの催促って、もしかして携帯にメールがきたんじゃないですか」

 女性はうなずいた。スマートフォンは車に置いてきたというので、店の前に止められていた軽自動車までついていった。

 女性は助手席に置かれていたスマホを手に取り、タップし始めた。こちらには画面を見せず、1人でにらめっこしている。

 一瞬、画面に「3億円当選」の文字が見えた。架空の高額当選金を受け取るために、手数料を支払わせる手口ではないか-。

 「お母さん、もしかしたらやけど、今回は払わなくてもいいかもしれへんで」と、勢いのあまり急にくだけた口調になってしまったが、女性の手が止まった。

 「否定しない」ルールに従って、「もしかしたらやけど」と何度も言いながら、「メールで請求されるのはだいたい払わないでいいやつやと思う」と言った。

 とまどった表情の女性に、名刺を渡して身分を名乗り、「知り合いのお巡りさんに聞いてみようか」と続けると、「うん」とだけ答えが返ってきた。

     ◆   ◆

 すぐに管轄の南但馬署に電話をかけた。「コンビニで女性から電子マネーを買いたいと尋ねられた」と話し、場所を伝えると、「分かりました、すぐ行きます」と返答があった。

 ほっとした瞬間、女性が急に「家族に怒られるから、やっぱりもう帰る」と車に乗り込みかけた。大ごとになったらどうしようと、不安になったようだ。

 無理に引き留めるのも悪いかなと思い、いろいろ話し続けた。「他の人がお金をだまし取られないためにも、お母さんの話は大事なことになる」とも言った。

 すると「私もテレビでおじいさんがしゃべってるのを見たことある」。女性は、オレオレ詐欺の被害にあった人のインタビューを見たことがあるという。ただ手口が全く異なるため、同じ特殊詐欺とは思っていない様子だった。

 しばらくしてパトカーで駆け付けた2人の警察官に事情を説明し、女性を引き渡した。

     ◆   ◆

 兵庫県警のまとめ(暫定値)によると、特殊詐欺被害は、今年3月末で201件、被害額約2億8千万円。手口は、今回のような「架空料金請求詐欺」が81件(前年同期比58件増)で最も多い。7割が電子マネーで支払っているという。

 今回のような高額当選の手数料のほか、有料サイトの利用料金、ウイルスに感染したと偽のセキュリティー警告画面を表示して修理費を請求するなど、名目はさまざまだ。

 昨年は、市役所職員などを装ってキャッシュカードをだましとる「預貯金詐欺」や、医療費の返還があるなどとしてATMで現金を振り込ませる「還付金詐欺」が多かった。手口は多様で、変化している。

 一方で、3月末まで191件、約4700万円分がコンビニ店員や金融機関の職員らによって水際で阻止されている。

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