但馬

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4月から作業を共にする増田時雄さん(右)と村上清能さん=香美町小代区神水
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4月から作業を共にする増田時雄さん(右)と村上清能さん=香美町小代区神水
ふ化器の砂の中にスッポンの卵を並べていく増田時雄さん(手前)と村上清能さん=香美町小代区神水
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ふ化器の砂の中にスッポンの卵を並べていく増田時雄さん(手前)と村上清能さん=香美町小代区神水
小代観光協会で販売されている健康食品「マムスポニン」=香美町小代区神水
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小代観光協会で販売されている健康食品「マムスポニン」=香美町小代区神水
香美町小代区の“スッポン王子”こと辺見裕作さん=大平山荘
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香美町小代区の“スッポン王子”こと辺見裕作さん=大平山荘
大平山荘で提供されるスッポン料理。1人6600円から(大平山荘提供)
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大平山荘で提供されるスッポン料理。1人6600円から(大平山荘提供)

 見た目は少しグロテスクだが、栄養価が高く、滋味豊かなスープは絶品-。但馬牛(うし)の原産地として知られる兵庫県香美町小代区に、隠れた人気を誇る特産がある。地元の住民が半世紀近く養殖する高級食材、スッポンだ。飲食店や旅館が料理を提供し、健康食品としても販売されてきた。今春、長年の課題だった養殖事業の継承へ、一筋の光が差したと聞き、現地を訪ねた。(金海隆至)

 緑の山々に囲まれた同町小代区神水の一角。同町小代内水面組合が運営する養殖場で、組合長の増田時雄さん(77)が、巨大なコンクリート製水槽の底の砂をくわでかくと、重さ1キロほどに育ったスッポン数匹が次々と姿を現した。

 この水槽では、地元の旅館などに出荷する約1週間前から餌を与えず、肉の臭みを抜くという。「一度かみついたら離れへんで」。増田さんが慣れた手つきで持ち上げ、にやりと笑った。

 現在は、4月末に始まった産卵期の真っただ中。施設隣の池で親スッポンが産んだ白い小さな卵を毎朝、バケツで運び、温度を30度に保った木製のふ化器の砂に丁寧に並べていく。その数、計約1200個。

 「ふ化する卵は半数に満たない。稚亀から3年かけて成長するものはさらに数が限られる」と増田さん。

 新型コロナウイルス禍で需要も落ち込む今春、1人で担ってきた養殖事業の後継者育成を念頭に、餌やりや掃除などに共に励むパートナーを得た。同町地域おこし協力隊として着任した村上清能(きよたか)さん(50)だ。

 傍らで所作をじっと観察しながら、村上さんは「稚亀を初めて見るのが楽しみ。できることなら全て生かしたい」と力を込めた。

    ◇    ◇

 旧美方町(同町小代区)では1975年ごろ、温泉水を活用して新たな特産をつくろうと、地元の町職員や郵便局員ら8人がスッポンの養殖を思い立った。素人ばかりの中に食堂を経営していた増田さんもいた。

 「5年かかる天然飼育に比べ、温水飼育は成長が早く、出荷までの期間が半分以下で済む」と考えたが、予想以上に難しく、失敗の連続だった。スッポンは音に敏感で、水温や環境の変化に弱く、一晩で約千匹が全滅したこともあったという。

 80年に初出荷を果たし、85年には美方町の補助で現在の養殖場を建設。淡水魚のチョウザメの養殖にも手を広げたが、仲間との事業は結局失敗に終わった。

 その後、遊んだままの施設を見かねて2003年、増田さんは再び独りで立ち上がった。

 この間に、スッポンの調理法を一から学び、1匹をフルコースで味わえる宅配便を考え、マムシとニンニクの栄養分を一緒に粉末にした健康食品「マムスポニン」を製造。当時の人気テレビ番組「11PM」にも出演するなど、独自に販売を重ねていた。

 約10年前には、養殖場とは別に、私財を投げ打ち、26度の温泉水で肥育するビニールハウスも建設した。増田さんは「手掛けた事業は生きる糧になり、楽しみにもなる。途中でやめてしまえば失敗に終わるが、休んでまたやれば失敗ではなくなる」と笑顔を見せる。

    ◇    ◇

 一方、村上さんは三重県桑名市出身。地元で20年以上、すし職人として働いてきた。それが今年1月、勤め先の店舗がコロナ禍で閉業。妻と3人の小学生を抱え、転職を考えたとき脳裏に浮かんだのが、数年前に目にした記事。増田さんが「後継者を探している」との内容だったという。

 香美町に電話すると思いがけず、地域おこし協力隊の任務に、今年から小代内水面組合の事業承継が加わると知らされた。

 かつて自らのスッポン料理を食べた闘病中の客が、体調を回復させた記憶があった。意を決して増田さんに会うと、明るい人柄にすっかり魅了された。

 任期は3年。「経済的には苦しいが、好きな仕事に就き、スッポンで多くの人を健康にできたら最高」と再出発の夢を語る。

 「インターネットを活用した販路拡大など、私にできないことで売り上げを増やしてくれたら」と増田さん。将来のバトンタッチを見据え、「私もかつてはすし職人だったから、気持ちはよく通じ合う。彼がこの先、しっかりと給料を稼げる仕組みを考えたい」と、うれしそうに話している。

    ◇    ◇

■“王子”美味お届け 旅館若旦那・辺見さん

 香美町小代区で“スッポン王子”を自称し、名産のPRに努めるのが、料理旅館「大平(おおなる)山荘」(同町小代区大谷)の若旦那、辺見裕作さん(39)だ。

 京都にある京料理店で修業し、22歳で帰郷。冬のスキー客などに頼らない観光資源を前面に打ち出そうと、約6年前から名乗り始めた。オリジナルのキャップには「Suppon(スッポン)」の文字。冗談のつもりだったが、意外に反響が大きく、旅館でも販売する。

 スッポンの身はビタミンが豊富で、くせがなく、刺し身や茶わん蒸し、唐揚げなど多彩な料理に合う。お薦めの鍋は、酒と水で身を煮た後でカツオとコンブのだしを加え、野菜や豆腐などと一緒に煮込む。

 「栄養があって、うま味の濃厚なスープをまず味わい、締めの雑炊まで堪能して」と辺見さん。

 地元の小代観光協会会長も務める。「王子」を自称しながらも、「“スッポンキング”は、やっぱり(同町小代内水面組合組合長の)増田時雄さん」と強調。「養殖事業の継承は地元としても大歓迎。応援したい」と話す。

 小代区でスッポン料理を提供する飲食店や宿泊施設の問い合わせ先は同協会TEL0796・97・2250

(金海隆至)

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