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オールレザーの将棋セットと飾り駒を手にする服部清隆社長(右)と高畑一桜さん=豊岡市小田井町
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オールレザーの将棋セットと飾り駒を手にする服部清隆社長(右)と高畑一桜さん=豊岡市小田井町
将棋盤と駒(服部提供)
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将棋盤と駒(服部提供)
通常の木製の駒に文字入れをする天童市の職人(服部提供)
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通常の木製の駒に文字入れをする天童市の職人(服部提供)

 かばんの一大産地である兵庫県豊岡市の老舗メーカーが、駒の生産量日本一の山形県天童市の職人と協力し、オールレザーの将棋盤と駒を開発した。皮革を何層にも重ねて磨き上げ手彫りの文字が刻まれた駒は、まるで使い込まれた高級感漂う木製の駒のようだ。メーカーは新型コロナウイルス禍での苦境を生き延びるための「新たな一手」と押し出している。が、技術が詰め込まれた将棋セットは55万円と高価格。「木製に見える革製将棋」のターゲットの検討もつかず、奇手にも思える。勝算はあるのだろうか。社長に話を聞いた。(石川 翠)

 将棋セットを製造したのは、1885(明治18)年に創業した豊岡市の「服部」。かばんのルーツ「柳行李」の流通などを経て、現在はかばん製造卸を営む。コロナ禍で需要が激減し、「生活様式が変化してコロナ前に完全に戻ることはないだろう」と、長年の技術を生かした新商品の開発を模索してきた。

 深刻な悩みながらも、新商品の発想は斜め上をいっている。昨年に発売した第1弾は、革で縁取った「花札」セット。外周に革を1枚ずつ貼り付けてミシンでステッチを入れるため、4万6200円もした。クラウドファンディング(CF)で資金を募ったところ、予想を上回る70人が購入したという。絵柄は全て地元豊岡の名所や名産品をモチーフとし、安価な紙製も用意したことが好調の要因とみる。

 服部清隆社長(58)が、最若手の技術社員高畑一桜さん(21)を強引に巻き込んでのスタートだった。

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 そして第2弾は、2人が将棋好きだという、至って個人的な趣味から始まったオールレザーの将棋セットに決まった。昨年に天童市に何度も足を運び、職人の協力を取り付けた。やはり最初は「なぜ革製?」と、いぶかしがられたという。

 職人が手彫りや手書きで完成させられるのは、1カ月で1セット。革の駒も大量生産できないが、新しいことにチャレンジしてみたいという「彫り師」と「書き師」の3人が応じてくれることになった。

 通常の駒は、尻に向かって分厚くなる形状になっている。これを再現するため、厚みが異なるようにすいた極薄の革を10層ほど重ねてがっちり固めた。側面は革の層でちょうど木目のように見える。職人が「王将」「歩兵」などの文字を刻むが、木と革で素材が違う上に、彫刻刀で薄い層の境目からひびが入ってしまうこともあり、角度や力の加減で試行錯誤が繰り返されたという。

 なんとか出来上がった駒を磨き上げると、渋い光沢が出て一段と木製の見た目に近づいた。将棋を指すと盤も革のため、木製よりも少しこもった重みのある独特の音が響く。

 保管用のきり箱も品質を追求した。外側に重厚感のある「鉄染め」した革を、内側には京都府の和紙工房ですいた和紙をそれぞれ張り、駒と駒置き、盤を収納することができる。

 日本の伝統文化と掛け合わせた手間と時間のかかる特別な一品ゆえ、フルセットの価格は55万円(書き駒は44万円)。特注品ではあるが、木製に見える革製の将棋セットのターゲットは一体誰なのか-。

 「社員からも誰が買うのかと言われた。正直、将棋好きの人でも、ほしいと思うか分からない」と服部社長。大きなサイズの革の「飾り駒」も販売し、ショーウインドーでの展示用などを見込むが、「バンバン売れるとは思ってない」とあっけらかんと話す。

 ただ、「大きな変化のきっかけにしたい」のだという。「コロナ禍でとてもつらい状況だけど、豊岡のかばん産地も、長い歴史の中で、柳行李から劇的に変化して時代に対応してきた。新しいことに向かっていこうとする産地の遺伝子がきっとあるはず。若手がチャレンジする機運を高め、突破口を探すためにいろんなことに挑戦したい」と説明する。一風変わった一手には、そんな思いが込められていた。

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 将棋セットの購入は、日本の職人による商品に限定したCFサイト「スタニング・ジャパン」で。飾り駒は側面が虹色になっている小サイズが8800円、高さ8センチの大サイズは1万7600円。いずれも22日締め切り。

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