♪アマエビ、モサエビ、オウミエビ、ガラエビ、そしてスジエビ。五つそろったら、松葉（ガニ）といい勝負。ファイト－。軽快なエレキギターと重厚なボーカルで、サビの部分はしっかりとハーモニーで盛り上げる。但馬の食材や名物をテーマに、オリジナルソングで地域の魅力を伝えるのが、和洋菓子店「遊月亭」を運営する製菓会社の但馬寿（兵庫県新温泉町千谷）だ。常務と社員がデュオを結成し、これまで１００曲近くを送り出してきた。菓子メーカーがなぜ、ご当地の応援歌を作り続けるのか。２人を訪ねた。（斎藤　誉）

　デュオの名前は「遊月亭オールスターズ」。無駄信長（むだのぶなが）さん（６４）＝本名・久村（くむら）謙藏＝と、遊月亭いく藏さん（３８）＝同・勝地哲平＝が２０１１年に結成した。久村さんは但馬寿の常務で作詞を担う。作曲担当の勝地さんは営業マンで、ボーカル兼ギターもこなす。

　♪神鍋スイカ、楕円（だえん）、楕円。神鍋スイカは楕円形。ぎっしり詰まってシャリシャリ－。

　歌詞には、郷土愛もぎっしり詰まっている。コウノトリをはじめ、岩津ねぎ、朝倉さんしょ、ホタルイカなどの食材のほか、天滝、はさかり岩などの自然も歌でＰＲする。豊岡市在住の俳優河合美智子さんが加わったり、障害者施設の利用者も歌ったり、小学生が歌詞を考えたりと、題材だけでなく、歌に参画する人も多岐にわたる。

　いずれもターゲットにするのは、未就学の子どもたち。こども園や障害者施設で披露する。振り付けをつけて一緒に楽しく踊り、少しでも耳に残ってくれればと願う。

　但馬で生まれ育った若者は、高校卒業を機に地元を離れるケースが多い。同社のホームページによると、親たちも「ここ（但馬）には何もない。勉強して東京や大阪に出なさい」と、子どもたちに話すことがあるという。そんな現状に歯止めをかけたい一心で、小さい頃から古里の応援歌を聞かせて地元の良さを伝え、「いつか戻ってきたい」と思ってもらえるようにするのが狙いだ。

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　オリジナルソング作りは、勝地さんの入社がきっかけだった。

　養父市出身の勝地さんは音楽の専門学校を卒業後、大阪で音響機器を扱う職に就いた。地元で働きたいとの思いから、インターネットで「但馬　企業」と入力して検索したところ、一番上にヒットしたのが同社だった。すでに採用枠は埋まっていたが、久村さんに面接希望のメールを送った。

　「何が得意ですか」。当時、採用の責任者だった久村さんの問いかけに「楽器はだいたいできます」と答えた。久村さんはかねて「地元を盛り上げるために何かできないか」と模索しており、音楽を特技とする勝地さんの採用を決めた。久村さんは小中学校で友達を題材にした曲を作ったこともあり、２人でご当地の応援ソングを手がけることを構想した。

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　こども園などで演奏すると、保護者から「うちの子は車の中でずっと歌っています」などの声も聞かれるようになった。地域の子どもたちに曲を作って１１年。当時の未就学児らは今や高校生ぐらいの年代で、応援ソングの成果をはっきりと感じられることはないが、人口流出に歯止めをかけようとする遊月亭オールスターズの挑戦は続く。

■「但馬はひとつ」市町の団結訴える曲

　これまでに発表した作品の中で、最も思い入れの深いのが「但馬はひとつ」という曲だ。兵庫には神戸や姫路だけでなく、但馬もあることを徹底的に強調し、何度も「但馬はひとつ」のフレーズを繰り返す。

　この曲には、久村さんの思いが強くにじむ。「今でこそ弱まったものの、数十年前の但馬は『よそ者』に冷たかった」といい、閉鎖的な印象がつきまとう但馬を盛り上げるため、歌を通じて各市町の団結を強めようと着想した。

　音楽活動で名乗る「無駄信長」は、天下統一を果たした織田信長にあやかったもの。そして、効率一辺倒ではなく、無駄や遊びを大切にしたいとの思いも込めた。