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深夜、山から現れた雄ジカ。食糧を求めてさまよい歩く=香美町香住区余部
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深夜、山から現れた雄ジカ。食糧を求めてさまよい歩く=香美町香住区余部
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 その獣は、夜の闇から忍び寄るように現れる。

 兵庫県香美町香住区余部の御崎地区。日本海に突き出た岬の突端にある人口40人の小さな集落に、5、6年前からその獣が頻繁に出没するようになった。

 集落の外れの斜面に広がるサンショウ畑は戦後、養蚕に代わる収入源として栽培が本格化。日本料理に添える芽は、9割が京都に出荷される。

 その獣はサンショウの芽を好み、木の皮まで剥がして食べる。サンショウは新芽を摘んでもまた芽吹くが、生産者が大切に育てる二番芽や木の皮を食われると、木全体が弱り、やがて枯れる。

 高齢の生産者にとって、自宅から遠い段々畑で柵や網を設置するのは難しい。「網を張っていない畑は全滅に近く、高齢者は畑を諦めている」と、香住野菜生産組合山椒(さんしょう)部会の岡田和(かなお)会長(69)。相次ぐ引退で耕作放棄地が増え、ここ数年で収穫量は半減した。

 夜、獣たちは集落まで入り込み、花や野菜も食い荒らす。御崎自治会は今年10月、海に面する集落の下手に延長約230メートルの金網を設置した。「雄は子牛ほどの大きさ。夜道で出くわすと大人でも恐ろしい」と門浦光吉自治会長(68)。「自分たちの集落は自分たちで守らなければ」

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 明治から戦前にかけて、その獣は毛皮を目的に乱獲され、全国的に激減した。神戸新聞社が1974年に発行した「兵庫探検・自然編」には「県下全体での頭数は(中略)1千頭をかなり割っていると思われる」とある。

 国は戦後、雌を禁猟として保護してきたが、80年代には県内でも数が増え、農林業の被害が顕在化。県は94年度、全国に先駆けて雌の狩猟を解禁したが、2010年ごろまで増え続けた。

 20年度末の県内の推定個体数(中央値)は15万8798頭で、但馬地域が7万2889頭(46%)を占める。一昔前まで県内で最も生息密度が高いエリアは南但馬だったが、近年は日本海の沿岸部まで分布を拡大。特に美方郡の2町の増加が際立つ。

 生息域の北上について、県自然・鳥獣共生課被害対策班の石川修司班長(47)は、いくつかの要因を挙げるが、その一つは近年の積雪の減少という。

 雪深い山間部でも谷筋や人里近くで冬を越せるようになり、峠を越えて雪の少ない沿岸部へ侵出した。森林にはササなどの食糧が手つかずで残る。狩猟者も少なく、自治体の対策が後手に回った。

 猟師1人が1日に目撃した頭数の平均値を示す「SPUE」という指標がある。1・0以下の生息密度になると農業・森林被害が減るとされ、県は全市町で1・0以下を目標に掲げるが、香美町は3・16、新温泉町は4・01(いずれも20年度)と県内でも突出する。

 県はこの2町を「緊急捕獲市町」に指定。石川班長は「美方の状況は危機的。今、対策を強化しなければ、手遅れになる」と警鐘を鳴らす。

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 農地や森林を荒らし、私たちの生活や生態系を脅かす獣・シカ。但馬が直面する被害の実態を追いかけた。

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