「豊岡で一番に思い浮かぶ満腹店」「何もかもがドカ盛り」。訪れた人が口をそろえて評するのが、ＪＲ豊岡駅から北東へ徒歩１０分の喫茶店「リンド」（兵庫県豊岡市若松町）だ。料理の量が多いことで知られ、地元客はもちろん、出張のビジネスマンや観光客も引き寄せる。財布に優しい気前の良さは５０年前の開業時から。店主の森垣哲夫さん（７５）は「心遣い」といい、きょうも多くの人の胃袋を満たしている。

■初めての人は「笑うしかない」

　ずっしりと盛られた白米に、げんこつサイズの唐揚げ。店一番の人気メニュー「唐揚げライス」（８８０円）に、今回も気おされてしまった。来店は３度目というのに…。

　２合ほどの米に、揚げた鶏肉の塊と添えられたサラダの多さに、初めて訪れた人は毎回「笑うしかない様子」（森垣さん）なのだという。ドカ盛りメニューはほかに、「焼きめし」（８３０円）「カレーライス」（同）など１５種類以上に上る。「エビカツカレー」（１１００円）を除いて、いずれも千円でお釣りが出る価格だ。

　メニュー表に「大盛り」や「特大」などサイズ設定の記載はない。サラダと白米は所定の量を決めておらず、長年培った感覚でたっぷりと盛り付ける。ご飯はおかわり自由。総菜の唐揚げやハンバーグ、チキンカツなどは追加料金で個別にトッピングができる。

　「おかずと一緒に提供する白米は（１人で）２合近くあるんじゃないかなあ」と店員さんが教えくれた。「ちょっと少なめ（多め）で」「大盛りで」「ご飯半分で」。要望によって量を柔軟に加減する。

■要望なくても「いっぱい食べたいだろう」

　森垣さんは妻と２人で、１９７３年にリンドを開いた。現在地の斜め向かいにあったボウリング場などの複合施設「協和会館」（同市加広町）に出店。客層は開業時から、高校生や工事現場で働く若者たちだ。「自分も若かったし、食べるのは多い方がいいに決まってる」と、どれもボリュームたっぷりで提供した。

　協和会館の跡地に、コープこうべの「コープデイズ豊岡」が建設されることになり、今の場所に移った。息子２人とその妻たちも店に加わり、家族経営となっている。

　昔から土日曜に部活帰りの高校生が来店すると、要望がなくても「いっぱい食べたいだろう」と、大盛りで提供してきた。調理場から常に店内を見渡し、心遣いを絶やさない。

　喫茶店だが、今では食事の提供がメインだ。午前６時半から仕込みを始め、米は１日に１２升を炊く。森垣さんは「何回も来てくれるということは、大盛りを喜んでもらえてるんだなあ。この仕事はお金じゃない」と半世紀を振り返った。

【リンド】豊岡市若松町７の３８。年中無休。午前７時半～午後８時。ＴＥＬ０７９６・２２・１５６８

■店主の温かい人柄に感謝　歴代の本紙記者も利用

　リンドは、但馬総局に赴任した記者らの「御用達」でもある。筆者も「大盛りを味わわねば」と２度訪れた。驚きとともに、確かな味をおなかいっぱい食べられる幸せをかみしめた。

　実は、過去に神戸新聞で紹介したことがなく、ぜひ話を聞いてみたかった。電話で森垣さんに取材を依頼すると、「まあそうだなあ、ええわあ」。渋々ながらも承諾してくれた－。日時を決めて電話を切った。

　当日、案内された奥の席に向かう。店内を見渡すと、壁の本棚に漫画がぎっしりと並ぶ。何冊あるんだろうと思いながら待っていると、森垣さんが調理場から来てくださった。

　「こっち（但馬）の人じゃないでしょう」。筆者の対面に腰を下ろし、開口一番に言った。続けて「本当は『ええわあ』って、断ったつもりだったんだよ」。

　「ええわあ」はノーを意味していた。神戸市出身の筆者は、但馬弁を理解していたつもりだったが、関西弁の意味で「イエス」と受け取ってしまった。

　そんな勘違いな記者の取材を快く受けていただき、リンドを紙面で紹介できた。取材中も無理なお願いばかり。森垣さん、リンドのみなさん、本当にありがとうございました。