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但馬で見られる野生種の一つ、エドヒガンの大木「樽見の大桜」=養父市大屋町樽見(撮影・吉田みなみ)
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但馬で見られる野生種の一つ、エドヒガンの大木「樽見の大桜」=養父市大屋町樽見(撮影・吉田みなみ)
城崎温泉街にあるカスミザクラを守り育てる四角澄朗さん=豊岡市城崎町湯島
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城崎温泉街にあるカスミザクラを守り育てる四角澄朗さん=豊岡市城崎町湯島
城崎温泉街から見えるカスミザクラ=豊岡市城崎町湯島(四角澄朗さん提供)
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城崎温泉街から見えるカスミザクラ=豊岡市城崎町湯島(四角澄朗さん提供)
ヤマザクラを守る取り組みを続ける「立雲峡・山桜を守る会」のメンバーたち=朝来市和田山町竹田
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ヤマザクラを守る取り組みを続ける「立雲峡・山桜を守る会」のメンバーたち=朝来市和田山町竹田
学名に「タジマ」が入る正福寺桜=新温泉町湯
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学名に「タジマ」が入る正福寺桜=新温泉町湯

 兵庫・但馬地域の各地で、古くから山々を彩ってきた野生種の桜を守る取り組みが続いている。桜と言えばソメイヨシノが有名だが、樹木医の宮田和男さん(82)=兵庫県朝来市=によると、国内には野生種が10種あり、但馬ではうち4種が見られるという。それぞれ地元住民らが「桜守」となり、次世代にふるさとの風景を伝えようと模索を続けている。(阿部江利)

■「樽見の大桜」、ヤマザクラ…各地のシンボル

 宮田さんは、同県養父市の「樽見の大桜」をはじめ、各地の名木やシンボルツリーなどの治療や保全に長年取り組んでいる。

 宮田さんによると、日本には野生種が10種あるが、国内に植えられた桜の大部分はソメイヨシノという。江戸時代末期、人が野生種のエドヒガンとオオシマザクラを交雑させて全国に広めたとされ、成長が早い半面、接ぎ木などで増やされるため遺伝子が単一で病気などに弱く、寿命も50~60年と短めだ。

 一方で野生種は、樹齢千年ともいわれるエドヒガンの「樽見の大桜」をはじめ、長寿の木も多い。宮田さんによると、但馬で見られる野生種は、開花順にキンキマメザクラ、エドヒガン、ヤマザクラ、カスミザクラの4種。それぞれ花の大きさも開花時期も異なり、例年は3月~5月上旬にかけて順に咲き、山や街道沿い、まちなかを彩る。

 宮田さんの紹介をもとに、但馬の野生種と桜守を訪ねた。同県豊岡市城崎町の城崎温泉街には「知る人ぞ知る」カスミザクラの名木があるという。「城崎温泉町並みの会」代表の四角澄朗さん(77)によると、温泉街の木屋町小路付近から見える場所にあり、幹回りは約2・7メートル、樹齢は220年ともいわれ、1925(大正14)年に発生した北但大震災でも焼失を免れたという。

 咲くのは遅く、毎年5月ごろまで楽しめるが、今年は4月中旬には散ってしまった。四角さんは苗木の植樹も続けており、今年は種からの苗木作りに挑んでいる。「このカスミザクラの美しさは別格。地域で長く親しまれた木を、ここで増やしていきたい」とする。

■樹木医「自然愛する活動が形に」

 朝来市和田山町竹田の立雲峡では、ヤマザクラの保全に取り組む「立雲峡・山桜を守る会」が2010年に発足。当時、ヤマザクラの老木やソメイヨシノの樹勢に衰えが見られており、同会は地元の竹田小学校4年生と一緒にヤマザクラの植樹を続けるなどで若木を増やしてきた。

 立雲峡は昭和初期、地元出身の経済人が私財をなげうって整備をしたとされ、戦前には県の「名勝天然記念物」に認定されていた。当時は「日本固有の山桜、大和桜の大木がこれだけ多く、全山を埋めているところは他になく、日本で唯一、太古さながらの自然のままにある」などと絶賛されていたという。

 同会による植栽の総本数は既に160本を超え、近年は種から苗木を育てることにも成功。同会の古屋耕三代表(72)は「桜を若返らせたい、自然の山を取り戻したいという同じ思いの皆さんの力があってこそ。10、20年先、若木に花が咲く日が楽しみ」と話す。

 開花シーズンで最も早く咲き、但馬に春の訪れを告げるのはキンキマメザクラだ。植田安雄さん(81)=豊岡市=は2006年ごろから、地域で一番早く咲くマメザクラの調査を続けており、22年からはマメザクラの苗木の育成に挑戦している。「春一番に咲く、細かな花のかわいらしさが魅力。地元にあるものを増やしていきたい」と成長を期待する。

 宮田さんは「『但馬の良さは自然』と総論を言う人は多いが、各論に言及する人は少ない。各論の一つが野生種であり、桜だ」と説明。各地の取り組みについて、野生種の桜それぞれに「但馬弁の桜守」がいるとし、「但馬の自然を愛し、その中で生活している人たちの取り組みが少しずつ形になってきている」と意義を強調する。

■学名に「但馬」入る品種も 名付け親は牧野富太郎

 但馬地域で見られる野生種は4種だが、学名に「但馬」が入った桜もある。新温泉町湯、正福寺の「正福寺桜」は、学名が「プルヌス・タジマエンシス・マキノ」。NHKの連続テレビ小説「らんまん」の主人公のモデルになった牧野富太郎(1862~1957年)が名付け親という。

 正福寺桜は、いずれも野生種のヤマザクラとキンキマメザクラが自然に交配した種で、昭和初期に牧野が学名を付けて発表したとされる。但馬のほか、西播地域にも分布している。

 同寺の熊谷圭諦住職(50)によると、現在の正福寺桜は、牧野が名付けた当時の孫・ひ孫世代で、着実に世代交代を重ねている。今年は例年より早い3月20日ごろに咲き始め、4月初旬まで咲き続けた。

 今春は牧野とのゆかりを知って来る人も目立ったという。数年前に肥料を施し、今年は花も葉も例年以上に色が美しいといい、熊谷住職は「植物だが、人と一緒で『きれいやな』『暑くないか』と良い声かけを続けているので、きれいな花を咲かせてくれるのではないでしょうか」と話す。

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