50ccのバイクの速度で世界記録を更新した近兼拓史さん=丹波市氷上町成松
50ccのバイクの速度で世界記録を更新した近兼拓史さん=丹波市氷上町成松

 丹波市の映画館「ヱビスシネマ。」支配人で映画監督の近兼拓史さん(62)=西宮市=が8月下旬、米国であったバイクの国際大会で、自身が2019年に樹立した世界最速記録を更新した。50ccのマシンで平均時速107.309キロを記録。悪天候や新型コロナウイルス禍のため、4大会連続で出場断念を強いられてきた。悔しさをはらし、世界記録更新にこぎつけた苦難の道のりを振り返る。(那谷享平)

 青空の下、何もない純白の平野が広がる。風が弱まるタイミングを待っていた。前回の出走から約1800日。「今しかない」。待ち望んだエンジン始動の音。スタッフが後方から車体を押し出した。どんどん加速するが、景色はほとんど変わらない。

 「ボンネビル・モーターサイクル・スピード・トライアルズ」。ユタ州で、塩湖が干上がってできた「塩の平原」を舞台に毎夏に開催されるバイクレースだ。名優アンソニー・ホプキンスさん主演の映画「世界最速のインディアン」の題材になったことでも知られる。エンジンの大きさなどに応じ、さまざまにクラス分けされ、1台ずつ直線コースを走る平均速度を競う。近兼さんは最小の50ccと125ccの二つにエントリー。「最小で最高のクオリティー」。初挑戦から掲げてきた理念だ。