沖縄県の玉城デニー知事が、スイス・ジュネーブの国連欧州本部で開かれた人権理事会で演説した。県内に在日米軍専用施設の7割が集中している基地問題を訴え、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古移設反対を改めて表明した。同県知事が演説するのは翁長(おなが)雄志前知事以来、8年ぶりとなる。各国政府代表を前に英語で行った演説は1分半ほどだったが、平和を求める県民の願いを直接伝えた意味は大きい。
演説で玉城知事は、県民投票で移設反対という民意が示されたにもかかわらず「日本政府は、貴重な海域を埋め立てて、新基地建設を強行しています」と述べ、「意思決定への平等な参加が阻害されている沖縄の状況を世界中から関心を持って見てください」と求めた。
人権理事会で地方行政の首長が登壇し、自国政府を批判するのは異例である。玉城知事は「関係政府による外交努力の強化」を要請した。知事が国際社会に「平和への権利」を訴えざるを得ない状況を、日米両政府は重く受け止めてもらいたい。
近年、日米は台湾有事などを念頭に沖縄を含む南西諸島を「最前線」と位置付け、防衛力強化を図る。今年3月、石垣島に陸上自衛隊の駐屯地が設けられ、10月には離島防衛を想定した日米合同訓練が九州・沖縄などで実施される。半世紀前の本土復帰時に沖縄県が望んだ「基地のない平和の島」は遠のくばかりだ。
周辺地域の緊張を高める軍事力の増強は「県民の平和を希求する思いとは全く相いれません」と知事は力説した。4人に1人が犠牲になった沖縄戦の経験を基にした非戦への誓いに、私たちも共感を寄せたい。
玉城知事は、国連欧州本部で非政府組織(NGO)が開いたイベントでも講演し、米軍基地が原因とみられる有機フッ素化合物(PFAS(ピーファス))の汚染問題を取り上げた。
PFASは発がん性など健康に影響する恐れが指摘され、各国で規制が進む。沖縄では基地周辺の地下水などで高い値が検出されているにもかかわらず、日米地位協定が壁となって基地の汚染源が特定されていない。知事は「調査すらできない不平等な状態が続いている」と述べた。
地位協定は、米兵による犯罪捜査や事故検証などの支障にもなっている。この理不尽さに国際社会の目が向くきっかけになってほしい。
残念なのは、知事の演説に対して日本政府側が「移設を着実に進めることが(普天間問題の)唯一の解決策だ」と反論したことだ。基地による人権侵害を改善できないなら、日本は国際的な信頼を失いかねない。まずは政府が強引な姿勢を改め、沖縄の民意と向き合うべきだ。
























