多くの課題が未解決のままで、重苦しい空気の年の瀬だ。

 「政治とカネ」の問題は後を絶たない。自民党派閥の政治資金パーティー収入を巡る裏金疑惑が噴出したほか、買収疑いで現職国会議員が逮捕された。検察捜査による実態究明に加え、再発防止には政治資金の使途の透明化や法改正が不可欠だ。

 財務副大臣の税滞納による辞任など岸田文雄首相の任命責任も問われたが、対応は後手に回った。防衛増税など国民に負担増を求める一方、所得減税を打ち出すなど政策は整合性を欠き、内閣支持率は20%台の危険水域に急落した。

 信頼の回復なしに政治は前に進まない。しかし場当たり的な対応と懸案先送りを重ね、国民の不安に向き合っていない。

 5月には新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けが季節性インフルエンザと同じ「5類」に移行し、約3年に及んだコロナ禍対策は転機を迎えた。社会経済活動の制約がなくなり、訪日客も回復して観光地などににぎわいが戻った。一方、ロシアのウクライナ侵攻の長期化や円安がもたらす物価高に賃上げは追いつかず、記録的な猛暑が食品値上げに拍車をかけた。

 旧ジャニーズ事務所創業者による性加害問題は、社会に衝撃を与えた。薬物汚染が若い世代に広がり、子どもの安全をどう守るかを考える年にもなった。

 宝塚歌劇団の俳優女性が9月末、自殺の可能性が高いとみられる状況で急死した。長時間労働や前時代的な慣習など深刻な問題が顕在化した。8月には、甲南医療センター(神戸市東灘区)の男性医師が自殺したのは長時間労働が原因だったとして西宮労働基準監督署が労災認定していたことが分かった。

 いずれも外部の目が届きにくい環境だ。組織の体質に問題はなかったか。再発防止と信頼回復に課題を残した。

 一方、スポーツ界では新風が巻き起こった。プロ野球は若手選手の台頭で阪神タイガースが38年ぶりの日本一となり、サッカーはJリーグ1部のヴィッセル神戸が初優勝を果たした。将棋では藤井聡太八冠が史上初のタイトル独占の栄誉に輝いた。

 来年は社会の閉塞(へいそく)状況にも、新風が吹き込んでほしい。