イランがイスラエルに対する大規模攻撃に踏み切った。イスラエル軍報道官によると、無人機170機、巡航ミサイル30発、弾道ミサイル120発などが発射された。多くは迎撃され被害は軽微だったとみられるが、イランがイスラエルを直接攻撃する事態は深刻だ。
イラン側は在シリア大使館が攻撃されたことへの報復だと主張した。しかし、国際社会が自制を求める中、中東の緊張を高める直接攻撃を強行したことは強い非難に値する。各国が連携を強め、これ以上の攻撃をやめさせねばならない。
一方で、今回の攻撃では犠牲者が出ず、イラン側が抑制的に振る舞ったことも見てとれる。イラン革命防衛隊トップは「限定的な作戦だった」と表明し、イラン国連代表部も「問題は終結したとみなすことができる」との見解を示した。
イスラエル側は「国連憲章に違反し、一線を越えた」と強く反発し、報復を検討している。米国が「イランへの攻撃には加わらない」とけん制しても強硬姿勢を崩さない。イラン側も再び攻撃されれば「大きな反撃に出る」と明言する。
「自衛権」を盾に報復が繰り返されれば事態はエスカレートし両国間の紛争につながりかねない。イラン側が抑制的な姿勢を見せる間に、何としても攻撃の連鎖を食い止める必要がある。だが、パレスチナ自治区ガザでの人道危機も相まって有効な手を打ち出すのは困難な情勢だ。
国連安全保障理事会は緊急会合を開き、グテレス事務総長が関係国に自制を呼びかけたが、非難の応酬は収まらなかった。
先進7カ国(G7)はオンライン形式で首脳会議を開き、イランへの制裁を検討した。複数のメンバー国がイラン革命防衛隊をテロ組織に指定する可能性を示唆したという。
ただ、今回の攻撃のきっかけとなった大使館空爆も国際法や条約に反する行為である。イスラエル側は正式には関与を認めていないが、真相を解明し処断するべきだ。
イスラエル擁護の姿勢を崩さず、イランには強い制裁を科す「二重基準」を米国など西側諸国が改めない限り、国際社会の足並みをそろえ、平和解決を図ることができない。
中東情勢の緊迫化はガザの人道危機の長期化が要因だ。イランはレバノンのヒズボラやイエメンのフーシ派など親イラン武装組織と連携し、ガザを実効支配するイスラム組織ハマスを支援してきた。フーシ派は紅海で船舶への襲撃を繰り返し、原油の流通に深刻な影響を与えている。
国際社会が公正な姿勢に立ち返って、ガザでの停戦と人質解放を早期に実現する必要がある。