気温が上昇する日が増えてきた。近年は厳しい暑さに見舞われ、昨夏の平均気温は1898年の統計開始以来、最高を記録した。今年も5月なのに各地で真夏日(30度以上)を観測し、梅雨明け後はラニーニャ現象などの影響で記録的な暑さになる可能性がある。熱中症への備えに万全を期さねばならない。

 改正気候変動適応法の施行に伴い、政府は4月下旬から「熱中症特別警戒アラート」の運用を始めた。重大な健康被害を起こす暑さが予測される場合に発表し、発症リスクの高い高齢者や乳幼児への配慮、対策が徹底できない場合の運動やイベントの中止などを呼びかける。

 政府は2021年以降、気温や湿度などから算出する「暑さ指数」が33以上と予測される場合に「警戒アラート」を出してきた。特別警戒アラートはその1段上で、全地点で指数35以上が見込まれる都道府県ごとに発表する。

 国内ではこれまで発表レベルに達した例はないというが、気候変動に関する政府間パネルは「極端な高温になる可能性が高まっている」と警告している。油断は禁物だ。

 総務省消防庁によると、昨年5~9月の熱中症による救急搬送は全国で9万1467人、兵庫県内でも3993人に上る。全国でほぼ毎年千人超の命が奪われている。

 特別警戒アラートの発表時は被害規模が膨れ上がる恐れがある。大きな地震や台風と同等の災害と捉え、不急不要の外出を控えるなど安全を最優先にした行動が求められる。

 熱中症予防の基本は体を冷やし、こまめに水分を補給することだ。患者の4割近くは室内で発症している。エアコンなどで室温が28度以下になるよう保つ必要がある。車中は外気よりはるかに高温になる。「すぐ戻るから」と乳幼児を車内に残すのは絶対にやめるべきだ。

 市区町村長は公民館や図書館、民間のショッピングセンターなどを「暑熱避難施設(クーリングシェルター)」に指定し、特別警戒アラート発表時は一般開放を義務付ける。市民に分かりやすく周知し、高齢者らには直接声をかける取り組みも積極的に進めてほしい。

 学校の運動部の練習や試合も配慮が必要だ。日本スポーツ協会は暑さ指数28以上で激しい運動は中止、31以上で運動は原則中止とする指針を示している。警戒情報の有無にかかわらず、涼しい場所での休憩や水分補給などの対策が欠かせない。

 ここ2年の夏場は新型コロナウイルス感染症の患者も急増し、救急搬送が困難になる事態が続いている。官民、地域を挙げて熱中症対策に取り組み、医療の逼迫(ひっぱく)を防ぎたい。