春以降、冬眠期を終えたクマの目撃や人が襲われるなどの被害が全国で相次いでいる。環境省によると、昨年度のクマによる人的被害は19道府県の計198件219人で、統計のある2006年度以降で最多だった。そのうち6人が死亡した。
62件70人と全国最悪だった秋田県では、今年も5月に4件5人の被害が出た。全国の4月の出没情報(速報値)は657件で、昨年同月の593件を上回る。クマは住宅や学校がある市街地にも現れており、住民の安全確保は急務である。
北海道にはヒグマが生息し、本州以南では33都府県にツキノワグマが分布する。被害は東北などに多い。
兵庫県では昨年度、被害はなかったが出没情報は524件に上り、阪神間や播磨など県南部でも目撃された。県民の不安は高まっている。
被害の多発などを受けて環境省は今年4月、本州のツキノワグマと北海道のヒグマを「指定管理鳥獣」に追加した。都道府県が捕獲したり生息状況を把握したりする場合、国の交付金が活用できる。個体数が少なく、絶滅の危険がある四国のツキノワグマは対象から除かれた。
指定管理鳥獣への追加は、昨年11月に北海道東北地方知事会が伊藤信太郎環境相に要請していた。各地域の実状に合わせた被害防止対策が進むことが望まれる。
また環境省の専門家検討会は、被害防止に向けた対応方針案を議論している。同案ではクマによる人的被害の恐れがある場合、市街地での銃猟を特例的に可能にすべきとした。近年は人間の生活空間に姿を見せる「アーバンベア」が増えており、安全の確保には有効だろう。ただし街中で銃を使う以上、事故の防止策は徹底しておく必要がある。
クマの個体数は増加傾向で、生息域も拡大しているとみられる。とはいえイノシシなどに比べると繁殖力が低いため、捕殺などにより、過度な個体数減少を招かないようにしなければならない。九州のツキノワグマは既に絶滅したとされる。
まず求められるのは、個体数やその経年的な変化、分布状況などの正確なデータだ。自動撮影カメラなどによる調査の強化が急がれる。
人とクマの生活圏を分ける「ゾーニング」も重要になる。アーバンベアが増える背景には、食料となる木の実の不作などの問題があるとされる。集落にある放置果樹の管理や緩衝地帯の整備を進めるとともに、クマの生息環境を整えるなどの長期的な取り組みが欠かせない。
住民の安全を守る対策を最優先にしつつ、野生生物を保護する。難しい両立を図るための知恵を絞り、人とクマの共存を目指したい。