在沖縄の米空軍兵が昨年12月に少女を誘拐し、わいせつな行為をしたとして、3月に那覇地検が起訴していたことが明らかになった。5月に沖縄所属の米海兵隊員が女性に性的暴行をしたとして、逮捕、起訴されていた事件も発覚した。厳正な司法手続きを求める。
相次ぐ悪質な事件に、沖縄県の玉城デニー知事は「強い憤りを禁じ得ない」と述べた。当然である。性犯罪は人権と尊厳を踏みにじる極めて卑劣な行為であり、言語道断だ。
米軍基地が集中する沖縄では米兵による犯罪が繰り返されてきた。本土復帰の1972年から2022年までに、米軍関係者が起こした凶悪犯罪は584件に上る。性暴力も絶えず、1995年と2008年の暴行事件でも今回と同様、少女が被害に遭った。県民は多くの犠牲と負担を強いられてきた。
重ねて許し難いのは、地元メディアが報じるまで政府や県警が被害を公表せず、県にも伝えなかった点だ。空軍兵の事件は発生から半年間も伏せられていた。日米両政府は1997年に重大事件に関する通報手続きに合意しており、被害者のプライバシー保護は理由にならない。実効性のある再発防止策のためにも情報共有は徹底されなければならない。
なぜ被害を伝えなかったのか。6月の沖縄県議選では、米軍普天間飛行場の辺野古移設に反対する玉城知事の支持派と不支持派の争いが注視された。支持派は大敗したが、事件が発覚していれば選挙結果が違った可能性もあり、地元には「影響を恐れたのでは」との疑念が広がっている。今後の対応も含めて、政府には説明を尽くす責務がある。
起訴された空軍兵の自宅は所属する嘉手納基地の区域外にあった。治安確保へ、県は米軍人の外出制限措置の強化を米側に要求した。被害者への謝罪や補償も求めた。那覇市議会などが抗議決議を可決し、嘉手納基地近くでは性暴力を非難する「フラワーデモ」が開かれるなど、批判の声は強まるばかりだ。米軍は猛省し真摯(しんし)に耳を傾けてもらいたい。
米軍の特権的地位を定めた日米地位協定の抜本的な見直しも欠かせない。現状では米兵が事件を起こしても、日本側への身柄の引き渡しは原則として起訴後になる。凶悪犯罪の場合は「好意的配慮」で引き渡されるケースもあるが、米側に裁量権があり、不平等と言うほかない。
今も在日米軍専用施設面積の7割が沖縄県にある。その状況が変わらない限り、県民が米兵による犯罪にさらされる危険性は変わらない。政府は米側に対し、基地の整理・縮小や地位協定の改定に応じるよう、強い姿勢で交渉すべきだ。