パリ五輪が閉幕した。新型コロナウイルスの影響で、2021年の東京五輪は原則無観客となり、22年の北京冬季五輪も観戦は招待客に限られた。パリではようやく大勢の観衆がスタンドを埋め、世界最高峰の競技会が通常の姿を取り戻した。

 今大会は「広く開かれた大会に」をスローガンに掲げた。史上初めて出場選手枠の男女同数を実現させ、女子マラソンを男子の翌日にして大会最終日を飾る日程にした。選手村には育児室を設けた。開催国フランスが、ジェンダー平等や多様性の理念を意識した点は評価できる。

 だが五輪を取り巻く情勢に目を向ければ、残念ながら「平和の祭典」とは程遠かった。大会中もウクライナやパレスチナ自治区ガザで戦闘が続いた。テロなどが警戒される中、開幕直前に高速列車の電気設備への放火があった。国際社会の分断が濃い影を落とす大会となった。

 大会には200超の国と地域から約1万1千人が参加した。16年のリオデジャネイロ大会で初めて結成された難民選手団では、過去最多の37人が出場機会を得られたのは喜ばしい。ただ、それは紛争や迫害で母国から亡命したアスリートが増えている証左にほかならない。

 運営で課題を残したのは猛暑対策だ。金メダル候補だったスケートボードの小野寺吟雲(ぎんう)選手は熱中症のような症状が出て予選落ちした。水質が懸念されたセーヌ川でのトライアスロンでは複数の選手が体調不良になった。健康への配慮に欠けた面があったと言わざるを得ない。

 一方、各国の選手は全力を尽くした。日本選手では、神戸出身で柔道の阿部一二三選手が2連覇を果たしたほか、体操の岡慎之助選手が団体総合、個人総合、種目別鉄棒で52年ぶりの3冠に輝いた。利き手を痛めながら二つのメダルを獲得した卓球の早田ひな選手をはじめ、自らの限界に挑戦するアスリートの姿が多くの人々に感動を与えた。

 許せないのが、交流サイト(SNS)などで目立った選手や審判への誹謗(ひぼう)中傷だ。柔道で2連覇を逃し、号泣した阿部詩選手を非難する投稿など悪意ある書き込みが続出した。日本オリンピック委員会は侮辱、脅迫などの行き過ぎた内容に対し、法的措置も検討すると声明を出した。これにとどまらず、選手の心の健康を守る有効な対策が求められる。

 パリ大会に先立ち、昨秋の国連総会で五輪休戦の決議が採択された。しかし決議には強制力がなく、戦火を止める難しさを痛感するしかなかった。これからも五輪が平和の祭典の理想を掲げ続けるなら、その実現に向けて参加各国が知恵を寄せ、努力を積み重ねていかねばならない。