国立大学の授業料を巡る動きに関心が集まっている。20年近く据え置かれてきたが、東京大などが値上げを検討していることが判明した。
全都道府県に設けられた国立大は、私立より授業料を低く抑え、幅広い世帯の子どもに高等教育の機会を保障してきた。値上げで大学進学を諦める人が増えれば、社会にも大きな損失になる。安易な値上げは容認できない。
人材育成や学術研究の根幹を担う大学教育の充実は一層重要になっている。だが日本は国内総生産(GDP)に占める高等教育への公的支出割合が、先進国の中で極めて低い。子どもが将来に希望が持てるよう、費用負担のあり方について社会全体で議論を深めるべきだ。
東京大は年間約10万円の値上げを検討している。教育の国際化やデジタル化に充てるという。広島大や熊本大も値上げの検討に入るなど地方にも動きが波及しつつある。
国立大の授業料は、文部科学省が標準額を年間53万5800円と定め、その1・2倍までは各大学の判断で増額できる。一橋大や東京工業大など7大学は既に引き上げたが、東京大を含め、多くは標準額を維持してきた。
学生の反発は強い。「教育格差が深刻化する」「大学院に進学するかどうかに影響する」などの声が上がる。授業料減免や奨学金などの支援策は中間所得層には乏しい。学生が不安を抱くのは当然だ。
慶応大の塾長は「国立大の授業料を年150万円程度に」と提言し、賛否が巻き起こった。私立大との公平な競争には値上げが必要-との主張だが、私立大の数が少ない地域への認識を欠いている。
一方、国立大の厳しい財務状況にも目を向けねばならない。2004年の独立法人化以降、人件費などに充てる国からの運営交付金は減り続けている。物価高が加わり、今年6月には国立大協会が「収入を増やす努力も進めているが、もう限界」との声明を出した。設備更新を遅らせるケースも珍しくないという。
日本の国際競争力にかかわる事態といえる。研究分野によっては、外部資金の獲得になじまない分野もあろう。国は運営交付金などの教育予算を増やす必要がある。奨学金制度の対象拡大など、学生が安心して学べる環境整備も求められる。
都道府県別の四年制大学進学率を見ると、昨年度の最高は東京都の71%で、最も低い鹿児島県は36%だった。地方在住で家計が苦しい世帯の女子は大学進学に最も不利とも指摘される。教育への公費支出を考える上で、地域格差の是正やジェンダー平等の観点を持つことが不可欠だ。