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 取り調べの違法性を巡り、検察官が刑事裁判にかけられることになった。前例のない事態である。検察は問題点を徹底的に洗い出し、抜本的な改革につなげなければならない。

 大阪高裁は、学校法人明浄学院(大阪府熊取町)を巡る業務上横領事件で捜査を担当した大阪地検特捜部(当時)の田渕大輔検事について、特別公務員暴行陵虐罪での付審判を決めた。この事件で逮捕、起訴され無罪が確定した不動産会社プレサンスコーポレーション元社長が請求し、大阪地裁は棄却したが、高裁が地裁決定を取り消した。

 付審判は、公務員に職権乱用があったと訴えても検察官が不起訴とした場合、裁判所に罪を問うよう直接求める仕組み。決定すれば不服申し立てはできず、裁判所が検察官役の弁護士を指定して公判が始まる。最高裁によると、検察官への付審判請求が認められるのは初めてだ。

 田渕検事は2019年12月、元社長の当時の部下=業務上横領罪で有罪確定=の取り調べで、机をたたき「検察なめんなよ」「プレサンスの評判をおとしめた大罪人」など長時間にわたり罵倒するなどしたとされる。決定は、検察官に迎合する虚偽供述を誘発する危険性が大きく、陵虐行為に該当すると判断した。

 検察の独自捜査事件は逮捕から起訴まで一貫して検察官が担当する。長期間の身柄拘束も常態化し、心理的圧迫を与える可能性が高い。取り調べの適正化に向け、19年から録画・録音が導入されたにもかかわらず「暴走」を許した。

 検察のおごりがにじむ発言も記録されていた。田渕検事は大声を上げて詰問しながら「検察官は人の人生を狂わせる権力を持っている」と述べた。慎重であるべき権力行使を脅しの材料に使うのは言語道断だ。

 さらに問題なのは、これらの発言は他の検察官も把握していたはずなのに、内部で適切に対応されなかったことだ。村越一浩裁判長は「深刻に受け止められていないことが問題の根深さを物語っている」と指摘し、検察全体の体質改善を求めた。

 大阪地検では10年に証拠改ざん事件が発覚し、その後も検察全体で威圧的言動や供述誘導などが相次いでいる。法務省の「検察の在り方検討会議」の議論を踏まえ、さまざまな対策が取られたにもかかわらず再発するのはなぜなのか。

 村越裁判長は、個人の責任に矮小(わいしょう)化せず、組織の問題と捉えるよう踏み込んで求めた。検察は指摘を重く受け止め、取り調べ中心の手法を見直すべきだ。元社長は弁護士を通じ「検察改革の第一歩になることを望む」とコメントした。切実な願いに応える責務が検察にはある。