米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古移設を巡り、海底に軟弱地盤がある大浦湾側での護岸造成に向け、防衛省が金属製くいの打ち込みを始めた。沖縄県は民意に沿って埋め立てに反対し、政府との協議を強く求めてきた。地元の声を無視し、本格着工を強行した国側の姿勢は到底受け入れられない。
くい打ち作業は、埋め立て海域を囲む形でコンクリート製の護岸を整備するためだ。その後、内側に土砂を投入していく。ただしマヨネーズに例えられるほど軟弱な地盤があり、最も深いところで海面下約90メートルになるとされる。そのため7万本以上のくいを打つ地盤改良が必要になる。前例のない難工事である。
国側は埋め立て工事全体を2033年春に完了するとしている。この計画に対し「完成する可能性は極めて低い」というのが県側の判断だ。それが埋め立て工事に反対する理由の一つになっている。玉城デニー知事は「工期もコストもはっきり説明することができない工事は、精査し直すべき」と述べる。
大浦湾の埋め立ては本当に可能なのか。県は軟弱地盤の深い部分の調査不足も指摘してきた。工事に関する県側の憂慮が的外れと言うなら、国側は工事の見通しを裏付ける明確な根拠を示さねばならない。
本格着工に際し、防衛省沖縄防衛局は「普天間飛行場の一日も早い全面返還を実現させるため」とコメントした。1996年の日米合意では普天間の返還は5~7年後の予定としていたが既に30年近くが経過しているうえ、工事完了後、米側への施設引き渡しの調整にも約3年かかる。早期返還には、辺野古移設以外の解決策を探る努力が欠かせない。
辺野古の滑走路は普天間よりも短く、米軍には不満もあるとされる。たとえ辺野古の工事が進んだとしても、普天間がスムーズに返還されるのか疑問を抱かざるを得ない。
大浦湾にはジュゴンなどの絶滅危惧種を含む多様な生物が生息する。貴重なサンゴ礁について、防衛省は移植して保護するとしているが、有効な措置にはならないと指摘する専門家もいる。工事が生態系に影響する懸念は解消されていない。
軟弱地盤改良工事の設計変更を、県は一貫して認めてこなかった。国は法廷で争い、勝訴を経て承認の代執行に踏み切った。あらゆる手段を使って強引に工事を進める手法は、地方の自治を守るためにも、とても見過ごすことはできない。
県側が要望する対話を、国は拒み続けている。国と県が対立する状態は異常と言うほかない。政府は工事を中断し、まずは重い基地負担を抱える沖縄の声に耳を傾けるべきだ。