総務省は、ふるさと納税制度による2023年度の寄付総額が1兆1175億円になり、初めて1兆円を超えたと発表した。返礼品人気の高まりなどを受け、制度を利用して居住自治体の住民税の控除を受ける人も初めて1千万人に達した。
ただ、多額の寄付を得ているのは人気のある返礼品を提供する一握りの自治体に限られ、地方全体が潤っているわけではない。富裕層が節税策として利用する例もみられ、税の根幹をゆがめている。際限のない寄付の膨張や地域の偏在という制度のひずみの是正を急ぐ必要がある。
ふるさと納税は、寄付を通じて故郷や応援したい自治体に貢献する目的で2008年度に始まった。東京など大都市に集中する地方税収の格差を是正する狙いもあった。
寄付額のうち2千円を超えた分が翌年の住民税や所得税から控除される。高額所得者ほど寄付額の上限が高いため、返礼品を多く受け取れるなど恩恵も大きい。
寄付者が多い大都市は住民税の減収が著しく、横浜市が305億円、神戸市は93億円に上る。行政サービスへの影響が懸念され、制度に対する不満が根強い。一方、多額の寄付を得るのは特産品が豊富な自治体に偏り、恩恵が地方に広く行き渡っているとは言い難い。得をする自治体と損をする自治体の税収格差が広がり、看過できない状況だ。
寄付総額が1兆円を超えたとはいえ、自治体の収入になるのはその半分程度でしかない。残りは返礼品の調達費や仲介業者への手数料、職員の人件費などに充てられる。行政サービスに使われるべき税収の多くが失われているのにも疑問が残る。
ふるさと納税を巡っては、問題が起きるたびに、それを取り繕う弥縫(びほう)策を繰り返してきた。
総務省は「返礼品は寄付額の3割以下の地場産品」とするなど基準の厳格化を図ってきた。来年10月からは新たに、自治体が仲介サイトを通じて寄付を募る際、寄付者に特典ポイントを付与することを禁じる。
自治体が業者に支払う経費が下がり、自治体の実質収入が増えることが期待される。これに対し一部業者は、ポイントの原資は「自社負担」と反論する。自治体が集客力のある仲介サイトに頼らざるを得ない面もあり、実効性は見通せない。
本来の趣旨に沿い、返礼品を目当てとしない寄付の奨励に立ち返ることでしかゆがみは正せまい。元日の能登半島地震の被災自治体には返礼品のないふるさと納税が数十億円規模で集まった。新たな寄付文化の創造にもつながる動きだ。制度の在り方を根本から問い直すことが、国と自治体、寄付する側に求められる。