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 台風10号が各地に猛烈な雨を降らせ、大きな爪痕を残した。全国で7人が死亡、負傷者も120人を超えた。停滞する前線に台風からの暖かく湿った空気が入って活動が活発化し、広い範囲で大雨となった。

 ゆっくりした速度で、九州や四国では長く雨が続いた。台風から遠く離れているはずの東海、関東地方なども豪雨となり、愛知県蒲郡市では土砂崩れで死者が出た。新幹線や航空便が運休するなど社会生活や経済活動にも影響が広がった。

 大気が不安定な状態は続いており、長雨で緩んだ地盤は少量の雨でも土砂災害などを起こす危険性が高まっている。警戒を緩めず、一人一人が命を守る行動を心がけたい。

 兵庫県内でも各地で非常に激しい雨が降った。8月29日夜には南あわじ市を中心に線状降水帯の発生が確認され、県内で初めて「顕著な大雨に関する気象情報」が発表された。気象庁によると、同市で1時間に約116ミリの雨を観測した。27日夜には佐用町でも1時間当たり110ミリ超の記録的な大雨となった。

 短時間に集中的に雨が降る「ゲリラ豪雨」を含め、体験したことのないような局地的な豪雨が頻発している。気象庁によれば80ミリ以上の雨は「恐怖を感じるような」降り方という。土砂災害や河川氾濫のほか、市街地では排水が追いつかず、下水道や側溝などの水があふれる「内水氾濫」にも注意が必要だ。

 地球温暖化の影響で近海の海水温が上昇し、勢力をあまり落とすことなく日本列島を直撃する台風が増えていると指摘される。

 台風10号は当初の進路予想が大幅にずれたことに加え、数日後の予報円が常に大きく、動きをつかみにくい状態が続く「迷走台風」だった。強い勢力で九州に上陸した後も自転車やジョギング並みの速さで進んだ。台風が停滞することで長時間雨風にさらされ、被害を拡大させた。

 今回のような強力な台風や広域にまたがる自然災害は、今後も起こりうるだろう。気候変動による気象災害の激甚化を踏まえ、防災・減災対策を見直すとともに温暖化防止への取り組みも進めるべきだ。自治体や住民も、過去の経験だけに頼った判断や思い込みでは対応が遅れる可能性があることを肝に銘じたい。

 浸水域や水深を予想する洪水ハザードマップの確認は命を守るための基本だ。防災訓練などで避難経路上の危険箇所を確認し、災害時にどう行動するかを地域で事前に話し合っておくことが重要となる。

 これから台風シーズンが本格化する。被害を最小限にとどめるため、最悪の事態を想定した備えを日頃から考えておかねばならない。