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 川崎重工業(神戸市中央区)で、コンプライアンス(法令順守)に関わる深刻な問題が相次ぎ発覚した。長年かけて築いた信頼に大きな傷が付く事態である。

 コンテナ船やタンカーなどに搭載する船舶用エンジンを製造する神戸工場で、少なくとも20年以上前から検査数値を改ざんしていた。8月下旬の川重の発表によると、エンジンを試運転した際、燃費データを納入先と取り決めた範囲内に収まるようにコンピューターを操作して書き換えていたという。

 7月には海上自衛隊との癒着疑惑が浮上したばかりだ。潜水艦の修理契約に絡んで、川重が下請け企業との架空取引で裏金を捻出し、潜水艦の乗組員らに金品を提供していたなどとして、防衛省が特別防衛監察を始めた。潜水艦の製造、修理も神戸で行っている。

 二つの問題で、川重は第三者による特別調査委員会をそれぞれ立ち上げた。これとは別に、橋本康彦社長をトップとする「コンプライアンス特別推進委員会」を設けた。

 原因究明が急がれる。該当の事業にとどまらず、グループ全体で不正がないか、技術力へのおごりから検査を軽視する風潮がなかったか、徹底的に洗い出す必要がある。

 船舶エンジンのデータ改ざんは、4月以降にIHIと日立造船の各子会社による同様の不正が明らかになったことを受け、国土交通省が求めた社内調査で分かった。

 不正により、窒素酸化物(NOx)の排出規制に違反している恐れが生じた。規制が始まった2000年以降に大型貨物船などに搭載されたエンジン673台のすべてでデータ改ざんが確認された。うち646台は外国籍の船向けで、影響は全世界に及ぶ可能性がある。

 川重の船舶エンジン部門は1世紀超の歴史を持ち、近年は環境性能の高さを看板にしてきた。しかし今回の改ざんからは、不正が常態化していたとの疑念が拭えない。

 国交省は海洋汚染防止法に基づき、神戸工場を立ち入り調査した。川重は、NOx規制の順守が確認されるまではエンジンの新規出荷ができなくなった。

 ここ数年、日本を代表する大手メーカーで検査不正が続く。川重が他社の不祥事を人ごととせず自己点検していれば、ずさんな実態をもっと早く把握できたのではないか。

 他社の検査不正では、品質より納期を優先する意識や、閉鎖的な組織風土などが原因とされた。法令順守は企業の存続にかかわる。信頼を失うのは一瞬だ。川重には、組織の抜本改革も視野に、調査や再発防止に当たってほしい。