神戸新聞NEXT

 中国軍のY9情報収集機が先月、日本領空の長崎県・男女群島沖を飛行し、軍用機として初めての領空侵犯が確認された。航空自衛隊戦闘機が緊急発進(スクランブル)し、警告などの対応をした。

 重大な主権侵害に当たり、偶発的な衝突につながりかねない。日本政府が中国側に厳重に抗議し、再発防止を強く求めたのは当然である。

 ただ、現時点で中国側の意図ははっきりしない。政府は警戒と監視に万全を期すと同時に、事態をエスカレートさせないよう両国間の意思疎通を緊密にする必要がある。

 防衛省によると、8月26日午前、男女群島沖で旋回を繰り返していたY9が約2分間、領空に侵入した。警告を受けて領空を出た後も周辺を旋回し、中国大陸方面に去った。

 同群島近くには敵機などを早期に発見、識別するためのレーダーが複数配備されている。その能力と日本の反応を見極める狙いだったとの指摘や、7月に海上自衛隊の護衛艦が一時中国の領海内を航行したことへの「意趣返し」との臆測が出ている。一方、旋回を続けるうちにルートを誤ったとの見方もある。

 軍用機以外の中国機による領空侵犯は過去2回あるが、いずれも中国船が領海侵入を繰り返す沖縄県の尖閣諸島魚釣島周辺だった。今回は別のエリアへの侵犯だったことも真意を測りかねる要素となっている。

 領海では沿岸国の平和と安全を脅かさない限り、原則として他国の船舶が通れる「無害通航権」が認められている。だが、領空に関しては、他国の航空機が許可なく入って飛行すれば、直ちに主権侵害に当たる重大な行為とみなされ、軍事衝突につながる危険度は高い。

 領空侵犯の恐れがある外国機に対する空自のスクランブルは2023年度に669回あり、このうち7割の479回は中国機が対象だった。中国外務省は「いかなる国の領空にも侵入する考えはない」と繰り返すが、なぜ今回は一線を越えたのか。中国政府は経緯を説明するとともに、頻発する領空周辺での挑発的行動そのものを自制すべきだ。

 日中の防衛当局は昨年春から、自衛隊と中国軍の幹部同士が緊急時に電話で連絡を取り合うホットライン(専用回線)の運用を始めている。しかし今回は使用が見送られていたことが判明した。偶発的衝突を防ぐための重要な手段を形骸化させないよう、運用の中身を再検討する必要がある。

 日中両国にはほかにも解決すべき課題が山積している。あらゆるルートを通じて双方が冷静に対話できる環境を確保し、不測の事態を避ける努力を続けねばならない。