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 2025年度政府予算の概算要求がまとまった。一般会計の要求総額は117・6兆円と24年度の要求額を上回り、2年連続で過去最大を更新した。

 膨張の一因は、政府が上限を設けなかった点にある。日銀の金融緩和路線により巨額の国債を低金利で発行できる環境が10年以上も続き、財政規律が緩みきった証しだろう。

 しかし経済状況の一変で金利は上昇に転じた。今回、国債の利払い額は28・9兆円を計上し当初予算ベースで過去最大となっている。

 財政規律を立て直さねば今後利払い費はますます増え、政策に充てる財源は圧迫される。その点を政府は強く意識して、要求を徹底的に絞り込む必要がある。

 要求額で伸びが顕著なのは防衛費だ。長射程ミサイルの開発費などを計上して初の8兆円台に乗せ、24年度当初予算を7・4%上回る。23年度から5年間で防衛費を約43兆円とする岸田政権の計画に基づくが、一方で財源とされる所得税や法人税増税は開始時期が見通せない。

 防衛費は23年度予算で1300億円を使い残している。43兆円の数字ありきで必要性に乏しい政策まで紛れ込ませていないか精査が要る。

 厚生労働省の要求額は34兆円超と過去最大になった。社会保障費では高齢化の進展に伴う増加分を4100億円と想定する。

 児童手当の拡充など政権が目玉として掲げた少子化対策の財源について、岸田文雄首相は社会保障費の歳出見直し分を充てることで「実質負担ゼロ」を強調している。しかしそのためには、国費だけで年間900億円の削り込みが必要とされる。防衛費と同様、財源を確定できないうちに支出を先行させるのでは国債発行に頼るしかなく、次世代に背負わせる債務は増える一方だ。

 金額を示さず事業の内容だけを示した「事項要求」も目立つ。その一つ、北陸新幹線の新大阪延伸はルートの詳細が決まらず、国土交通省は金額を盛り込まなかった。

 与党は年末までに詳細を決めるが、建設費は総額で5兆円に上る可能性がある。複数年度で確保するとはいえ、25年度予算はその分、確実に膨れ上がる。こうした手法が常態化すれば概算要求の枠組みそのものが形骸化しかねず、見直しを検討するべきだ。

 自ら掲げた目玉政策の財源確保に道筋をつけないまま、岸田首相は退陣する。自民党総裁選に次々と名乗りを上げる候補者たちはその点を明確にして、今後の財政運営に対する考え方を示さねばならない。事実上の次の首相を決める際に、見極めるべき重要な論点である。