パリ五輪などスポーツの現場で、交流サイト(SNS)上での選手らへの誹謗(ひぼう)中傷が深刻化している。
日本代表では、柔道女子52キロ級で敗退した後に号泣した阿部詩(うた)選手(夙川学院高出身)や、陸上女子競歩の個人種目を辞退し混合団体に専念すると発表した柳井綾音選手らが悪質な投稿の標的とされた。バレーボールなどでも敗れた選手や対戦相手の態度などを汚い言葉でののしる事例が見られた。
競技にミスや敗戦はつきものだ。試合内容や選手の論評は自由だが、真摯(しんし)な努力を重ねてきた選手への敬意を欠き、追い詰めるような行為は許されない。
日本選手団を統括する日本オリンピック委員会(JOC)は大会期間中に「過度の侮辱や脅迫には法的措置も辞さない」とする声明を出した。厳正に対処し、抑止への毅然(きぜん)とした態度を打ち出したのは当然だ。
3年前の東京五輪でも、選手らへの心ない書き込みが相次いだ。SNSによる中傷被害は選手に限らないが、五輪やスポーツへの人々の関心は高いだけに影響はより深刻である。
国際オリンピック委員会(IOC)はパリ五輪で初めて、人工知能(AI)を活用してSNSを監視し悪質な投稿を自動的に削除するシステムを事業者の協力を得て導入した。IOCによると、期間中に8500件を超える誹謗中傷の投稿が確認されたという。
見過ごせないのは、選手を特定の国や人種、性などと関連づける差別的な投稿が絶えないことだ。パリ五輪ではボクシング女子の選手がトランスジェンダーと決めつけられた。全国高校野球選手権大会で優勝した京都国際は韓国系の学校を前身とするが、選手が韓国語の校歌を斉唱したことが非難された。
ネット上の全ての情報を把握するのは難しいが、競技団体や事業者側は不適切な投稿を防ぐための主体的な取り組みを強化する必要がある。
怒りなどの感情に任せた投稿は自分が思う以上に人の心を傷つける。中傷への安易な追随や拡散も深刻な被害を招く。書き込む前に冷静に考えてほしい。一人一人が情報発信に責任を伴うことを忘れてはならない。