レバノンの首都ベイルート郊外などで、通信機器が2日連続でほぼ同時に爆発し、37人が死亡、約3千人が負傷した。同国を拠点にするイスラム教シーア派組織ヒズボラは、敵対するイスラエルによる攻撃と断定し、報復を宣言した。
一方、イスラエル側は関与を否定せず、首都郊外を空爆してヒズボラ有力幹部らを殺害したほか、翌日には多数の戦闘機で周辺に大規模な攻撃を加えた。
昨年10月にパレスチナ自治区ガザでイスラム組織ハマスとイスラエルの戦闘が始まって以来、ヒズボラはハマスへの連帯を示しイスラエル北部への攻撃を繰り返す。イスラエル軍は最近、部隊をガザからレバノン国境へ移動させており、一連の攻撃は交戦前にヒズボラの通信網破壊や戦力低減を狙った可能性がある。
だが、全面的な衝突が起きれば紛争は一気に拡大しかねない。
ヒズボラやハマスなど「抵抗の枢軸」を支援するイランは、今年7月に同国でハマス最高指導者が暗殺されたことに強く反発し、イスラエルへの報復を明言する。ヒズボラと共に攻撃を激化させれば危機的な状況を招く恐れがある。国際社会が連携して双方に自制を求め、ガザの停戦を含め鎮静化を図らねばならない。
爆発はまずポケットベル型の機器で発生し、翌日にトランシーバーで起きた。ヒズボラは2月、追跡や盗聴の恐れがある携帯電話の使用を禁じ両機器を導入した。この動きが察知され、製造や流通の段階で火薬や起動装置が仕込まれたとみられる。
相当な期間をかけて準備された可能性が高く、高い情報収集能力を持つイスラエル対外特務機関モサドの関与が指摘されている。
作戦による打撃は大きかったが、多数の通信機器を同時爆発させる前例のない手法は、国際法違反との批判を免れない。
死者の多くはヒズボラの戦闘員とみられるが、子ども2人ら民間人も犠牲になった。不特定多数の巻き添えをいとわない攻撃は、卑劣と言うよりほかはない。経緯の解明と責任追及が不可欠だ。
爆発したトランシーバーには大阪市の製造会社のラベルが張られていた。同社は自社製である可能性は限りなく低いと発表したが、日本製品が攻撃のカモフラージュに使われたとすればゆゆしき事態だ。政府は実態把握に努めてもらいたい。
一連の攻撃は、イスラエル側が情報収集力を誇示し反撃の抑止を図る狙いがあったと指摘される。しかしガザでの戦闘と同様、多くの民間人を巻き込めば憎悪の連鎖を生むだけだ。「法の支配」による解決を日本も粘り強く訴えなければならない。