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 立憲民主党の新代表に野田佳彦元首相が選ばれた。早期の衆院解散・総選挙が取り沙汰される中、自民党と対峙(たいじ)する「党の顔」として豊富な経験を生かした安定感と政治手腕への期待を集めたとみられる。

 野田氏は枝野幸男前代表との決選投票を制した後のあいさつで「本気で政権を取りに行く覚悟だ。戦いはきょうから始まる」と力を込めた。

 野田氏は民主党政権の首相だった2012年、不利な情勢下で衆院解散に踏み切り、自民の政権復帰を許した。有権者の失望感は根強く、議席数で与党に大きく水をあけられた状況が続く。負のイメージを払拭し党勢拡大への期待に応えられるか、早速手腕が問われる。

 代表選では、泉健太代表、当選1回の吉田晴美衆院議員を含む4候補が「政権交代を目指す」と口をそろえた。次の衆院選で国民から認められる選択肢になるためには、具体的で実現性を持った政策と戦略を打ち出すことが欠かせない。野田氏はその先頭に立つ重い責任を負った。

 派閥裏金事件で自民に逆風が吹く中にあっても、立民は民意の十分な受け皿になり得ていない。野田氏は「分厚い中間層の復活」を唱えてきたが、党の独自政策が幅広く浸透しているとは言い難い。有権者に政権交代の意義や現実味を感じてもらうには、経済政策や社会保障、安全保障、原発・エネルギー、少子高齢化などの幅広い分野で現政権への対抗軸を明確に示さねばならない。

 野田氏に求められるのは、新たな選択肢を打ち出す発信力とともに、与党の政策から抜け落ちる多様な声に耳を傾ける姿勢だろう。選択的夫婦別姓制度の導入などジェンダー平等実現への道筋も示す必要がある。政治に期待しない有権者の関心を引きつけられるかが喫緊の課題だ。

 次期衆院選への最大の争点が「政治とカネ」の問題への対応である。改正政治資金規正法は多くの「抜け穴」が残る。代表選で野田氏は企業・団体献金の禁止や政策活動費の廃止を訴えた。自民党のみならず、有権者の間には既成政党全体への不信感がある点を直視するべきだ。先送りされた課題を解決し、真の政治改革をけん引してもらいたい。

 衆院選を見据え、野党連携の在り方も焦点となる。野田氏は「どの党とも対話できる環境をつくる」と強い意欲を示す。支持団体の連合を介した国民民主党との選挙協力にとどまらず、日本維新の会などと主張の違いを乗り越え候補者調整を進められるか、粘り強く寛容な指導力が求められる。

 野党第1党として国民に政権交代への結集軸を示し、政治に緊張感を取り戻さなければならない。