自民党の総裁選がきのう投開票され、28代総裁に石破茂元幹事長が選ばれた。岸田文雄首相に代わり、10月1日召集の臨時国会で正式に新首相に指名される。
過去最多の9人が立つ混戦で、1回目でトップの高市早苗経済安全保障担当相と2位の石破氏との決選投票にもつれ込んだ。最後は石破氏が国会議員、地方票ともに上回り逆転した。近づく総選挙に向け、靖国神社参拝を明言するなどタカ派的姿勢を隠さない高市氏を避け、「地方を守る」など比較的穏健な主張が目立つ石破氏に票が流れたとみられる。
岸田政権では世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との癒着や派閥の裏金事件が相次いで発覚し、自民党への信頼は失墜した。長く政権を担う中で培ってきた「カネと数の力」で支配する政治と決別し、生まれ変わる党の姿を見せられるか。新総裁が背負う責任は重く、道は険しい。
総裁選の最終盤では決選投票を見据えた多数派工作が激化し、旧派閥の数の力に頼る動きが見られた。石破氏も麻生太郎副総裁、菅義偉元首相に自ら支援を求めた。党役員人事と組閣で独自性を貫けるか。石破氏の覚悟が早速問われる。
国民は裏金問題を忘れてはいない。石破氏は「新事実が判明した場合の再調査はあり得る」との立場をとるが、裏金に関係した議員の公認や要職起用は否定しない。だが、世代交代と若手・女性の登用で党運営を刷新する好機ではないか。
併せて、改正政治資金規正法の穴をふさぎ、政策活動費の廃止など残る課題に取り組み、再発防止を徹底しなければならない。
急浮上した選択的夫婦別姓制度の導入を巡り、石破氏は個人的には賛成としつつ、議論を深める必要があるとの姿勢だ。1996年に法制審議会が導入を答申し、法務省が法改正案も整えたが自民党の反対で国会提出は見送られた。この間に国民の理解も深まっている。封印を解き、国会審議を促す時である。
論戦が深まらなかったのは、岸田政権から引き継ぐ「異次元の少子化対策」や防衛費増額の財源確保策、経済成長と財政再建の道筋、原発・エネルギー政策、外交・安全保障政策などだ。負担増を伴い、賛否が分かれるなど政権の体力を消耗する課題ばかりだが、避けては通れない。早期解散が取り沙汰される中、臨時国会では与野党が政策の対立軸を明らかにし、国民に選択肢を示す論戦の場が不可欠である。
石破氏は総裁選後、「国民を信じ、勇気と真心をもって真実を語る自民党に」と述べた。まずは目指す国のかたちと重視する政策を国民に語り、逃げずに論戦に臨むべきだ。