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 パレスチナ自治区ガザでの戦闘が始まって1年になる。ガザを実効支配するイスラム組織ハマスによるイスラエルへの越境攻撃に端を発し、イスラエル軍の激しい掃討作戦が今も続く。4万1千人を超すガザの死者には子どもや女性が多く、病院の機能停止や食糧不足で人道危機は深刻さを増す。一方、ハマスが連行した人質の死亡も相次いでいる。

 停戦実現に向け米国などの仲介で交渉が続けられてきたが、合意の道筋はいまだ見えない。それどころかハマスを支援するイランなどを巻き込んで紛争が拡大する可能性が高まっている。国際社会は近年にない危機的な状況と認識し、根本的な解決を図らねばならない。

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 ガザの停戦はなぜ困難なのか。その理由として中東の矛盾があぶり出されたことが挙げられる。

 イスラエルは戦後、国連決議によりパレスチナ人を追い出す形で建国された。反発するアラブ諸国との戦争を繰り返す中、パレスチナの土地の占領をさらに進めた。

 1993年のオスロ合意で2国共存の機運が高まったが、右派政権の成立で立ち消えになる。イスラエルはパレスチナ自治区のうちガザを完全封鎖し、ヨルダン川西岸では一方的な入植を続ける。いずれも国際法に違反する行為だ。

 ハマスはこれらの歴史背景を基に勢力を伸ばした。米国はテロ組織とみなすが、パレスチナにとって不法な占領に対する抵抗勢力の側面があることは見逃せない。

「二重基準」に批判

 昨年10月の越境攻撃直後、欧米をはじめ国際社会はハマスを糾弾し、イスラエルの報復を支持した。しかし、戦闘の長期化で民間人の死者が積み上がるにつれ、批判が集まるようになったのは欧米の「二重基準」だ。ロシアのウクライナ侵攻を非難する一方で、イスラエルの占領政策や過剰な攻撃を黙認し続けた。

 国連は機能不全の様相を深める。停戦決議案が安全保障理事会に提出されるたびに拒否権を持つ米国などが否決に回り、有効な対策を打ち出せない。欧米が主導する国際秩序は揺らぎ、ロシアのウクライナ侵攻への対応にも影を落とす。

 この1年間、中東情勢は悪化の一途をたどっている。レバノンを拠点とするイスラム教シーア派組織ヒズボラはハマスへの連帯を示し、イスラエルへの攻撃を繰り返してきた。ガザ全土で掃討を進めたイスラエルは今月、ヒズボラ壊滅を目指しレバノンへ侵攻した。

 これに対し、ヒズボラを支援するイランは大規模なミサイル攻撃に踏み切り、イスラエルも報復を明言する。中東の2大国が全面衝突すれば破滅的な状況を招く恐れがある。

 イランの核施設を攻撃するとの見方が出ているのも見過ごせない。国際社会はイランとイスラエルの双方に強く自制を求めるべきである。

日本が取るべき道

 混迷する状況に日本はどう向き合うべきか。方策の一つは国際刑事裁判所(ICC)への支援強化だ。

 戦争犯罪を犯した権力者らを裁くICCはあらゆる機関から独立し、公正な裁定が期待される。

 ロシアのウクライナ侵攻に関し子どもたちを連れ去った容疑でプーチン大統領に逮捕状を出した。ガザの戦闘では民間人殺害を巡りハマスとイスラエル双方の幹部の逮捕状を請求している。予断を持たない捜査がICCの本領だ。

 しかし、最近は組織の存続を揺るがす動きが出ている。米下院は「『テロ組織』とイスラエルを同列にすべきでない」としてICC関係者への経済制裁法案を可決した。上院も賛同し発効すれば活動は窮地に陥る。ICC加盟国のモンゴルが、逮捕義務に反しプーチン大統領を自国に招いたことも看過できない。

 ICCには米国やロシア、中国などの大国やイスラエルは加盟していない。執行機関も持たず、実効性への疑問は根強い。しかし、国際秩序が揺らぐ今こそ、法の正義を図る機関を守る必要がある。日本は最大の資金拠出国であり、赤根智子所長を送り出している。加盟国を増やし実効性を高めたい。

 国際秩序の回復には、力による現状変更を許さない原則を貫く必要がある。ガザ危機の解決にはイスラエルの占領政策の放棄とパレスチナとの共存実現が必須だ。日本は中東諸国との信頼関係を生かし、外交のチャンネルを増やしつつ新たな秩序構築に貢献したい。中東政策の誤りを正すよう米国に厳しくものを言う姿勢も、石破茂新首相に求められる。