神戸新聞NEXT

 石破茂首相はきのう衆院を解散した。総選挙は15日公示、27日投開票の日程で実施される。

 2021年10月以来、3年ぶりの政権選択選挙だ。「民主主義の危機」克服を掲げながら自民党派閥裏金事件で指導力を発揮できず、退陣した岸田文雄前首相の政権運営に審判を下す機会でもある。国民的議論のないまま安全保障や原発などの重要政策を大転換した3年間をどう総括するのかは重要な争点になる。

 失墜した政治への信頼を取り戻し、民主主義をどう再生するのか。人口減少や社会保障など直面する課題への処方箋や、国家像をどう描くのか。与野党は選択肢を明確にし、有権者に判断を仰がねばならない。

    ◇

 首相就任からわずか8日での解散は戦後で最も短い。臨時国会では首相の所信表明演説と各党の代表質問、党首討論を実施しただけで、政権の基本姿勢や具体的な政策が周知されたとは言い難い。

 総裁選で言及していた予算委員会の開催に応じるかどうかは、安倍、菅、岸田政権と続いた国会軽視の強権的手法を改める試金石だったが、首相が選んだのは早期解散だった。「ぼろが出ないうちに」との党利党略とみられても仕方あるまい。

 首相は「新内閣はできる限り早期に国民の審判を受けることが重要だ」と変節を否定する。しかし選挙で信任を受けたとしても、それは政権への白紙委任では決してない。

■政治不信を拭えるか

 最大の争点となるのが、自民党派閥裏金事件を受けた政治改革への対応である。

 首相は事件で処分を受けた旧安倍派幹部ら計12人を衆院選で非公認とする方針を表明した。政治資金収支報告書に不記載があった「裏金議員」は公認しても比例代表への重複立候補は認めないとしている。

 厳正な対処を演出し、支持を広げる狙いだろうが、そもそもが党の甘い処分に基づく判断だ。大半の議員が公認される状況では、国民の納得も共感も得られるはずがない。

 本来取り組まねばならないのが、中途半端に終わった裏金の実態解明だ。誰がいつ始め、何に使われたのか。首相は再調査に後ろ向きな姿勢を崩していないが、真相が分からないままでは、いつまでたっても政治不信は払拭できまい。

 再発防止に向けた改正政治資金規正法は成立したものの、多くの「抜け穴」が残る。政治資金パーティーや企業・団体献金、使途報告義務のない政策活動費は温存され、とても「改革」の名には値しない。

 むしろ法改正の過程で明らかになったのは「政治とカネ」の問題に対する自浄能力の欠如だ。国民と政治の信頼関係を築き直せず、岸田政権が行き詰まったのは当然の帰結だろう。現状を放置せず、「カネをかけない政治」を実現するには何が必要なのか。各党は選挙戦で踏み込んだ議論を交わしてもらいたい。

■どうする「負の遺産」

 政策面では岸田政権の評価・検証にとどまらず、9年近くに及んだ安倍、菅両政権にまでさかのぼって総括するべきだ。

 安倍路線を継承して岸田政権は防衛力強化を打ち出したが、他国のミサイル基地などを破壊する反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有や防衛費の大幅増額を盛り込んだ安全保障関連3文書の改定などでは、重要政策を立法府に諮らず閣議決定のみで変更する独断的な手法を重ねた。議論を通じて法案の問題点を改める国会の機能を立て直さねばならない。

 原発の最大限活用やマイナ保険証の実質義務化なども国民の幅広い合意なしに進められた。長年にわたる世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と自民党との関係解明もうやむやなままだ。石破政権は安倍政治の「負の遺産」にどう向き合うのか。

 防衛費や少子化対策で安定財源の確保を巡る議論を先送りする一方、度重なる経済対策で歳出を膨らませ、国債残高をさらに積み上げた。各党は持続可能な財政のかじ取りについて考えを明確にしてほしい。

 衆院選では政権選択に加え、格差是正、物価高対策、選択的夫婦別姓制度、原発政策、外交、憲法改正など論点は多岐にわたる。各党には政策の実現可能性について、財源を含む説得力のある訴えを求める。

 長らく「1強多弱」と言われ、強引な政権運営に歯止めをかけられなかった野党にとって、まさに正念場だ。政権批判に終始せず有権者に選択肢を示す責任がある。政治に緊張感を取り戻すためにも、短期決戦の中で真価が問われる。