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 都市部で続く地価の上昇が、地方へと波及している。不動産価格の値上がりなどで実感している人も多いのではないか。

 国土交通省がまとめた7月1日時点の基準地価は、東京、大阪、名古屋を除く地方圏のうち、主要4市(札幌、仙台、広島、福岡)以外の地域でも前年から0・2%上昇した。地方がプラスに転じたのは32年ぶりである。全国平均は3年連続で値上がりし、バブル経済の崩壊後最大となる1・4%の伸びとなった。

 兵庫県では、住宅地が1・2%増、商業地が2・8%増といずれも前年の伸び率を上回った。城崎温泉街の中心に位置する豊岡市城崎町湯島は16・2%増となり、県内の商業地で最も上昇率が高かった。にぎわいが回復し、ここ1、2年で旅館や店舗の新設が相次いでいる。

 全国平均で見る限り、新型コロナウイルス禍による停滞から完全に脱したと言えそうだ。訪日客の増加や都市部の再開発、円安を背景とした投資目的の海外マネーの流入などが要因に挙げられる。

 国交省は「バブル期のような短期的な売買ではなく、実需を反映した緩やかな上昇が続いている」と分析する。しかし、建築資材や人件費の高騰は収まる気配がない。暮らしに直結する住宅価格や家賃に過熱感が生じないか、注意が必要だ。

 民間調査機関によると、近畿2府4県における1~6月の新築マンションの平均価格は5813万円だった。前年から2割値上がりし、「とても手が届かない」との声も上がる。中でも、若い勤労者や子育て世帯への住宅支援の充実が望まれる。公営住宅の優先入居や、ローンや家賃の負担緩和、空き家の活用などを進めてほしい。

 地域間の格差にも留意したい。県内では阪神間や東播磨で住宅地の上昇幅が拡大した一方、但馬、淡路、丹波などは下落傾向が続く。

 高齢化や人口減少が進む中、地域の持続可能性を高めるために今打つべき手は何かを官民で考えることが肝要である。高齢者の買い物や通院の支援などは喫緊の課題だ。住民を交えて地域の将来像を話し合い、共有する取り組みも有効だろう。

 このたびの基準地価では、1月にあった能登半島地震の被災地で大きく落ち込んだ。石川県輪島市中心部の住宅地は14・8%減だった。同県は9月の豪雨でも甚大な被害を受け、復旧のさらなる遅れが懸念される。同県以外でも、昨年の台風や豪雨で被災した地域は下落した。復興の足かせになりかねない。

 災害への備えを強化し、住民の安心・安全と、暮らしへの満足度を高める不断の努力が求められる。