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 衆院選がきのう公示され、12日間の論戦が始まった。小選挙区定数「10増10減」などを受けた新区割りで計465議席を争う。全国では9党などから計1300人超が立候補を届け出た。兵庫県内の12小選挙区には過去最多の56人が立候補した。

 石破茂首相が就任8日後に衆院を解散した異例の短期決戦だ。自民党が2012年に政権復帰して以降、長らく続く「自民1強」と呼ばれる巨大与党体制を継続させるのか、野党勢力を伸ばして政治に緊張感を呼び覚ますのか。今後の国政の大きな流れをつくる選挙である。

 判断材料は多岐にわたる。物価高対策、社会保障、少子化対策、地方活性化、災害対策など国民の暮らしに密接に関わる政策課題が争点になっている。外交・安全保障、憲法改正など国の根幹に関わるテーマでも各党の違いが浮かび上がる。

 27日の投開票日まで、各党が発表した公約と候補者が訴える政策を見比べ、私たちが暮らす社会の将来像を選び取るための機会としたい。

 最大の争点は、自民党派閥裏金事件で失墜した政治への信頼を取り戻すための改革に、各党がどう向き合うかである。

 首相は裏金議員の公認問題で場当たり的な対応を重ねたが、何よりも最優先すべきは裏金事件の全容解明と再発防止策である。首相は党首討論でも野党が求める再調査には否定的だ。真相究明に後ろ向きな姿勢を有権者はどう評価するのか。

 抜け穴だらけの政治資金規正法の再改正も真摯(しんし)な議論が欠かせない。首相は「政治資金の透明性を担保する」とするが、政策活動費は当面継続し、企業・団体献金も必要性を訴える。自民は「カネのかかる政治」と決別する覚悟があるのか。論戦を通じて目を凝らしたい。

 野党にとっても正念場だ。立憲民主党は「政権交代こそ政治改革」と訴えるが、野党間の候補者調整は限定的だ。裏金問題で自民に厳しい視線が向けられる中、「敵失」に頼るだけでは信頼は得られない。批判票の受け皿を超えて、政権像を具体的に提示できるかなど課題は多い。

 高齢化と人口減少の加速を踏まえ、国民に負担を求める少子化対策や防衛増税などを巡る議論も忘れてはならない。物価高対策で低所得世帯への給付金支給のほか、減税策を公約に盛り込んだ政党もあるが、財源をどうするか、手だてを十分に示していない。政策の実効性をどう担保するか明らかにする必要がある。

 政党だけでなく、私たちの意識も問われている。無関心は「白紙委任」につながり、身勝手な政治を許す。「主役は国民」と自覚し、未来への選択に臨みたい。