長引く物価高は国民生活に深刻な影響を及ぼしている。衆院選では各党が対策を打ち出し、重要な争点の一つとなっている。
背景には国際情勢や人口減少といった構造的な要因が重なり、短期間での解消は見通せない。いったん講じた対策は継続が避けられないだけに、財政への影響や他の政策との整合性を慎重に見極めたい。
消費者物価指数はデフレ経済下で下落基調が続いたが、2022年2月にロシアがウクライナに侵攻し資源価格が値上がりしたのを受けて上昇傾向を強めた。残業規制の強化や人手不足による人件費高騰も重なり、23年の上昇率は前年比3・1%と41年ぶりの高水準となった。
与党の自民と公明は、ガソリンや電気・ガス料金引き下げを目的とした補助金の継続と、低所得世帯向けの給付金創設を公約に掲げる。
会計検査院は、ガソリン価格の抑制額が補助金の交付額を下回っていると試算した。効果的な公金の使い方なのかは疑問符が付く。エネルギーを使えば使うほど補助額が増え、「脱炭素化を妨げる」とした国際通貨基金(IMF)の批判は一考に値する。選挙戦が熱を帯びていけば、給付金の支給対象がなし崩しに拡大する懸念も否めない。
野党の公約は消費税見直しが目立つ。立憲民主は、中低所得層の消費税負担分を税額全体から控除し控除しきれない額は給付する「給付つき税額控除」を掲げる。日本維新の会や国民民主、参政は減税を、共産は廃止を目指した上での減税を、社民とれいわ新選組は廃止を唱える。
家計の負担は軽減されるが、消費税収は税収全体の3割超を占める。財政の国債依存度を高めないよう、税収がどの程度減り、どう穴埋めするのかを明確に示してほしい。
立民は日銀が「物価の番人」である点に着目し、2%の物価上昇率目標を0%超に改める公約も示した。長く続いた金融緩和路線が物価高の一因との指摘もある。だが金融政策で物価を抑え込もうとすると金利の大幅な引き上げにつながり、景気に悪影響を及ぼしかねない。そもそも中央銀行の独立性を脅かすことにならないかについても、きちんとした説明が欠かせない。
今回の物価高は高度成長期のような需要の増加ではなく、原材料や人件費などコスト上昇分の転嫁によるものだ。給与の上昇分が追いつかず、実質賃金の低下傾向も続く。
痛み止めのような一時しのぎの対策ではいずれ効果が薄れる。問題の背景にまで踏み込み、解消に向けた政策をパッケージとして盛り込んでいるかどうかも、有権者は厳しく吟味する必要がある。