今年の新聞週間(15~21日)は衆院選の日程と重なった。
交流サイト(SNS)や生成AI(人工知能)が拡散する誤った情報とフェイクニュース(偽情報)が有権者の判断をゆがませ、投票行動に影響する事態があってはならない。人々の命や暮らしを偽・誤情報から守り、民主主義社会の土台を支えるために、取材に基づく確かな報道に徹し、新聞の重要性を広く知ってもらう好機である。
今年の代表標語は「流されない 私は読んで 考える」。日本新聞協会の全国公募に寄せられた約1万編から選ばれた。他の入選作も「バズるより 正しい情報 見極める」「人が書き 人が運んで 人が読む」などSNSやAIの情報をうのみにせず、真実を見極めようとする読者の決意と、新聞への期待を込めた作品がそろった。
発行部数の減少傾向が続き、新聞を取り巻く環境は厳しい。報道の使命を再確認し、正確で信頼できる情報を届ける責務を果たすことが、新聞が生き残る道だと胸に刻みたい。
社会の価値観が多様化する中で開かれた議論の場を生みだすには、新聞業界内の多様性を高める必要がある。組織の意思決定に関わる女性や若者らを増やす取り組みが欠かせない。
地方紙の存在意義も問われている。16日に秋田市で開かれた新聞大会で秋田魁新報社の佐川博之社長は「権力を監視し、民主主義を守るためには地元紙が一つもないニュース砂漠をつくってはならない」と訴えた。座談会「デジタル時代のジャーナリズム」で山陽新聞社の板谷武編集局長は「地域とともに考え、AIに聞いても出てこないコンテンツが必要」と述べた。
今年の新聞協会賞の一つに選ばれた本紙連載企画「里へ 人と自然のものがたり」は、ドローンや自動撮影カメラなど最新の機材を活用して市街地に出没する野生動物の姿をとらえ、生態系に影響を与える人の営みを問い直した。
永田町や霞が関からは見えない地域の実情を伝え、足元から社会の課題を提起する。進化するデジタル技術と共存し、多くの新聞社と切磋琢磨(せっさたくま)しながら、粘り強く地域メディアの役割を全うすることを改めて誓う。